■ドラッカーの前期・中期・後期と上田惇生『(100分de名著)ドラッカー マネジメント』 その3


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7 「ワクワクドキドキ」の発展・展開

ドラッカーは『マネジメント』のあと、非営利組織の経営について論文や本を書いています。代表的なものは、1989年の論文「会社はNPOに学ぶ」と1990年の『非営利組織の経営』でしょう。「会社はNPOに学ぶ」の結びは、以下のようになっています。

▼ほとんど例外なく、「会社の仕事はやりがいが十分でなく、成果や責任も十分でない。使命も見えない。あるのは利益の追求だけだ」との答えが返ってくる。(p.104『ドラッカー経営論集』)

「やりがい」がないと、知識労働者の生産性を向上させることもできないということです。「使命」が見えるようになっていないと、知識労働者は満足できないということになります。これは上田の言う「ワクワクドキドキ」に該当するものというべきでしょう。

この点、ドラッカーの『マネジメント』には、目的や使命について明確な概念の記述がありません。この「ワクワクドキドキ」が発展・展開して、後期のドラッカー・マネジメントの「使命・ミッション」の概念につながったのだろうと思います。

 

8 『マネジメント』での「目的」

『マネジメント』には「目的」という用語がいくつか出てきます。第4章「マネジメントの役割」に「目的とミッション」という項目があり、第6章「企業とは何か」には「企業の目的」の項目があり、第7章は章題が「目的とミッション」になっています。

第4章「自らの組織に特有の目的とミッション」
第6章「企業(ビジネス)の目的」
第7章「事業(ビジネス)の目的とミッション」

これらの概念にどんな差異があるのか、普通に読む限りよくわかりません。それでも文脈をたどっていけて、何となくわかるのがドラッカーの凄さかもしれません。ただ目的とかミッションという用語の概念が、ある種、メチャクチャという印象を受けます。

上田なら、これらの目的を整理して説明するはずです。実際、「使命」と「目的」を使い分けています。使命とは前述の通りワクワクドキドキです。一方、「企業の目的」を「企業とは何か?」と結びつけて、企業活動の動因となる「顧客の創造」としています。

ただ、上田のテキストには「顧客の創造」の項目はなく、「知りながら害をなすな」の中で触れるのみです。そして[顧客の創造とは、お客に求められているものを創造すること](p.66:100分de名著)という説明がなされています。上田らしくないミスです。

「顧客の創造」とは『現代の経営』にある通りです。[市場は、神や自然や経済的な力によって創造されるのではない。企業人によって創造される](上・p.48:選書版)ということになります。製品・サービスによって「顧客を」創り出す、生み出すということです。

 

9 基本概念の理解が不可欠

ドラッカーはマネジメントの役割として3つをあげました。その最初のものが[自らの組織に特有の目的とミッションを果たす]というものです。上田は、この[三つの役割を果たせば十分か、十分ではないと言います]とドラッカーの考えを紹介しています。

『マネジメント』では[企業をはじめとするあらゆる組織が、役割つまり「存在理由」に加えて、「正統性」を必要とする](p.68:100分de名著)と指摘しました。ここでいう正統性とは[「人の強みを生かす」こと]だということです。

したがって、自らの組織に特有のワクワクドキドキの使命を果たすだけでは不十分であり、人の強みを生かすことが必要だ…ということになるのでしょうか。何だか、この上田の説明はよくわかりません。目的・使命の概念の説明不足があるということです。

▼目的、ミッション、目標、戦略なくしては、マネジメントの人間をマネジメントすることも、組織構造を設計することも、マネジメントの仕事を生産的なものにすることも不可能である。 『マネジメント』上・p.56

『マネジメント』第4章「マネジメントの役割」の章末の言葉です。これらの言葉の概念を正確に把握する必要があります。『経営者に贈る5つの質問』の質問1は「われわれのミッションは何か?」でした。ミッションという言葉の意味の把握が不可欠です。

上田惇生『(100分de名著)ドラッカー マネジメント』は、『マネジメント』だけでなく、幅広い著作や論文のエッセンスを簡潔に紹介してくれるよくできた入門書です。こうした親切な入門書と同時に、基本概念の理解が不可欠だと、あらためて思いました。

 

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