■ドラッカーの前期・中期・後期と上田惇生『(100分de名著)ドラッカー マネジメント』

1 ドラッカー・マネジメントの前期・中期・後期

上田惇生の100分de名著ブックス『ドラッカー マネジメント』で、1954年『現代の経営』、1964年『創造する経営者』、1966年『経営者の条件』を、経営三部作と呼ばれている…と紹介しています。この三部作がドラッカー・マネジメントの基礎になるでしょう。

『マネジメント』については、[ドラッカーのマネジメント論の集大成]とあります。この本は[経営学の本というよりも、人間を感動させ、幸せに導くために書かれた本と言っていいのかもしれません](p.36)というのが上田流の評価です。

その後、NPOのマネジメントを大幅に取り入れたマネジメント体系になります。1989年に論文「会社はNPOに学ぶ」を発表、1990年『非営利組織の経営』、1999年『明日を支配するもの』が出版され、没後に『経営者に贈る5つの質問』が加わりました。

ドラッカーのマネジメントを前期・中期・後期に分けようとしたら、1973年の『マネジメント』の前と後を考えればよいはずです。1950年代・60年代が前期、70年代が中期、1980年代後半からが後期ということになります。内容の変遷から言っても妥当でしょう。

 

2 上田流ドラッカー論の集大成

このように、ドラッカーのマネジメントを前期・中期・後期に分けることは可能なはずです。実際に、体系を見てみると、どう考えても違いがあります。その変遷に興味を持つのは当然のことといえるでしょう。しかし上田は違う見方に重点を置いています。

上田の『(100分de名著)ドラッカー マネジメント』は上田流のドラッカー論の集大成と言ってもよい本です。2011年にNHKで放送された内容をもとにして、『マネジメント』に限らず、ドラッカー全般についてコンパクトにまとめられています。

この上田の本を読むと、ドラッカーの生涯を通じての一貫した考えが浮かんできます。ドラッカーのマネジメント体系を読み取ろうとするよりも、ドラッカーを思想家として扱っているとも言えそうです。「人を感動させるもの」を読み取っているともいえます。

あらためてこの入門書を読むうちに、自分の読みの甘さに気がついてきました。考え方の変遷は誰にでもあります。同時に、変らないところが重要です。その両者を十分に読み取って行かないと、理解したことにならないと気づかされます。

ある程度、ドラッカーを読んだ人にも、この本は十分応えてくれるでしょう。そして上田流の読み取り方を味わうことができます。当時から感じていた、『もしドラ』に感激しすぎている点など、いま読んでも微妙な点もありますが、間違いなくいい本です。

 

3 証券会社へのドラッカーのアドバイス

アメリカのエドワード・ジョーンズという証券会社についてのエピソードを、上田は、この本の「はじめに」で紹介しています。『マネジメント』に感動したこの会社の幹部たちが、ドラッカーにコンサルティングをお願いした時の話です。

▼最初に会ったとき、ドラッカーは彼らにこうアドバイスしたそうです。
「お金を儲けるためにやってくるお客を相手にしてはいけません」 p.7

ドラッカーらしい話でしょう。お金儲けを目的とするお客さんを相手にしていると、会社の経営がおかしくなるという考え方です。上田は[証券会社の存在意義に立ち戻って考えてみると、ドラッカーの言うことは間違っていません](p.8)と語っています。

▼本来の証券会社というのは、お金がある程度たまってそれを運用したいと考える一般のお客と、資金を必要としている企業をつなぐパイプ役を確実に果たすために存在しているのです。
つまり、証券会社の役割は、世の中が必要としている「財サービス」を提供することであり、儲けさせることが目的であってはならない。 p.8

[あやしげな金融商品は一切扱わない][内情がしっかりしていない企業の株は絶対に進めない]といった方針を貫いた結果、[働きたい会社ベスト10に毎年ランキングされる超優良企業になった]ということです。ここから私たちは、何が学べるでしょうか。

ドラッカーは物事の存在意義に立ち返って考えます。こうした考え方を私たちはまず身につけるべきかもしれません。そもそもの目的は何であるのかという発想です。あるいは「私たちは何のためにそれをすべきであるのか」ということになります。

 

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