■『星野リゾートの教科書』に学ぶマネジメントの本の読み方

1 教科書の活かし方

マネジメントの本をどのように読んだらよいのか、その参考になると思われるのが『星野リゾートの教科書』です。この本には、星野リゾートの星野佳路(よしはる)社長が、会社の改革を考えるときの教科書にした本と、その実践のされかたについて記されています。

星野社長の本の読み方はとても基本的なものです。この本の最初に、本の活かし方を3つのステップにして示しています。第1が本を探すときの注意点、第2が本を読む方法について、第3が実践に移すときの基本について…です。まず第1から見てみましょう。

本を探すときに、書店に1冊しかないような古典的な本を選べとあります。本を選ぶのは簡単ではありません。教科書とする以上、[流行の波を乗り越えて、体系化された理論として生き残り、定石として一般的に認知されたこと](p.18)が重要です。

▼私の場合は教科書を見つけるために、書店に足を運ぶことが多い。インターネット経由で注文することもあるが、よい教科書に出会うのはやはり書店だ。手に取ってページをめくることによってはじめてわかることや気づくことがあるからだ。 P.18

マネジメントの本に限らず、本を選ぶには本屋さんに行って、手に取ってみることが大切です。星野社長の本の選び方は、基本に忠実なものというべきでしょう。これはと思ったなら、手に取るだけでなくて、購入して読んでみることが必要になります。

 

2 教科書の読み方

星野社長は、本を選ぶときの基準として、[役に立つ教科書は、「今、自分が直面している課題を扱うシンプルな理論」であること](p.20)と語っています。少なくとも最初の部分をきっちり読んで、教科書になるかどうかを判断していかなくてはなりません。

本から学ぼうとしたら、自腹を切ることが重要になります。その本から学ぶためには、丁寧に読むしかありません。それなりに時間がかかりますし、書き込みをすることやマークを付けることもあるでしょう。購入しないと、なかなか安心できません。

星野社長の場合、購入を前提にしているためか、その必要性には触れられていませんが、これが本選びのセンスを磨く一番のポイントになります。購入して読んでみることが本選びの基本であり、それによって失敗のリスクを負うことが不可欠というべきです。

いい本だと思ったのに、どうも違っていたということはよくあります。購入して失敗した本が何冊か出てくることが必要なことです。私自身、失敗したと感じる経験を何度も重ねることによって、本の選び方がなんとなくわかってきたように思います。

いい教科書を選べるなら、その先は何とかなるものです。まずは選んだ教科書を丁寧に読んでいくことが必要になります。教科書として読んでいくのですから、わからないところがないように読まなくてはなりません。星野社長の読み方はとても基本的です。

▼私が教科書を読むスピードは速くない。内容を正しく理解するために、同じページを何度も読み返すことは頻繁にある。「わからない点があっても、全体で何となくつじつまが合えばそれでいい」という読み物的な読み方では、教科書の内容を経営に生かすことはできない。 P.21

 

3 実践のマニュアル

星野流の読み方は、何度も教科書を読みながら、理論を理解することが基本です。同時に[「自社にどのように当てはめればいいのか」「どこを変える必要があるのか」と考えながら読む](p.21)ということになります。これが解決策を見出す方法でもあるのです。

理解しようとするとき、自社の事例に引き寄せて理解し、当てはめを考えます。目的意識があるので、[頭の中が次第に整理されていき、やがて打つべき対策が見えてくる](p.21)。これがマネジメントの本を理解するときのエネルギー源というべきでしょう。

教科書を理解するために経験を総動員すると、その過程で解決策を見出せるのです。[線を引いたり付せんを張ったり][打ち手を思いついたときにそのページに書き込む]などして、[実践するためのマニュアルとして、何度でも読む](p.22)ことになります。

第3ステップとして、内容を理解したら[100%教科書通りにやってみること](p.23)とあります。一部のつまみ食いではダメだということです。まずはじめに[マニュアルとして忠実に実践する](p.25)、そのあとで微調整するという方法をとっています。

この本では実際の当てはめの事例が12項目紹介されています。事例自体はわかりやすくて、学生にもすぐに読めるものです。「微調整」後のものが紹介されているため、教科書を読み解くまでの苦労はほとんど見えませんが、しかし、それが重要だったはずです。

星野社長の厳しい読み方の紹介のあとに、わかりやすい事例が紹介されている点がこの本の魅力であり、リスクでもあるでしょう。本当に読めたのかを確認するために、事例をレポートにしてもらったことがありました。おもいのほかズレた読みになるのです。

この本を素材にして、教科書をどう読んだらいいか、どうやって応用したらいいかを、自分の問題として切実に考えてみると、役に立ちます。ごく最近でも、この本を何度か苦労して読むことによって、実際のアイデア出しのヒントが得られた例もあるのです。

 

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