■「ひらがな」で考えるマネジメントの基本:人材と成果について その2


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4 ミッションからはじまる:全体から部分

マネジメントの基本は、全体から部分へと考えていくことです。全体を統合したものが上位概念ですから、上位概念から下位へと考えていくことになります。ドラッカーのマネジメントでも1980年後半からは、ミッション・使命を特別に重視していました。

自分達は「どういう仕事をしようとしているのか」を明らかにすることが大切です。ここでは、何が仕事の目的なのか、「何でその仕事をするのか」が問われています。言い換えると、あなたは「どういう仕事」をする人だと言われたいのですかということです。

玩具メーカーの人が、安全なおもちゃ…という言い方をしていました。安全なおもちゃを作っているメーカーだと思ってもらいたいのですね、と確認したことがあります。しばらく考えて、子供の可能性を拡げること、夢をもってもらうことだ…に変わりました。

どう思われたいのかと聞かれれば、夢を持ってもらえる玩具を作ることになるのが普通かもしれません。会社のミッションが明確でないことがよくあります。各部門のリーダーが魅力的な部門のミッションを掲げれば、やる気がでてくる可能性は高くなるでしょう。

▼使命とともにすべてを始めなければならない。これは、きわめて重要なことである。組織として、また個人として、どのようなことで人々に記憶されたいのか。使命は、今日を超越したものであるが、今日を導き、今日を教えてくれるものでもある。使命を見失ったとたんに、われわれは迷路に入り込み、資源を浪費してしまう。使命があるからこそ、明確な目標に向かって進むことができる。 p.177:『非営利組織の経営』1991年版

 

5 『あなたに褒められたくて』

ミッション・使命は「イメージが明確なもの」というのが条件です。そのイメージは、リーダーの信念に基づいて、「私たちはこういうことをする組織なのだ」と主張できる内容であるように作ります。自分たちが、人からどんなイメージをもたれるかです。

ここでいう「人」とは、不特定多数ではありません。自分にとって、大事な人たちのことです。大切に思っている人たちが、自分達のことを、あるいは自分たちの仕事をどう思ってくれるだろうか…ということ、どう思ってもらえたら嬉しいのかが問われます。

一流の人たちの中には、ある特定の人たちに恥ずかしくないようにという意識をもつ人が必ずいるものです。知り合いの画家のなかにも、自分の師事する先生とは全然違った雰囲気の絵を描きながら、心構えや精神について、ずっと先生を意識している人がいます。

たぶん高倉健という人の場合も同じだと思うのです。『あなたに褒められたくて』という題名の本があります。「あなた」とは自分の母親のことです。高倉自身が、何で仕事を一生懸命やってきたのかといえば、母に褒められたくてだろうと記していました。

ドラッカーの『非営利組織の経営』には、「誰に」ということがはっきり書かれていません。しかしドラッカーの文章を読むと、どんな人でもいいわけではないのです。上田惇生先生にこの話をしたときに、そうなのそうなの…とおっしゃっていました。

 

6 リーダーの条件

学生はどうなりたいかのイメージが描けるようになると、すごく変わってきます。これを若いビジネス人にも応用したらいかがでしょうか。そればかりか、部門のリーダーたちにも、拡げていったらよいと思います。どうなりたいかのイメージはとても大切です。

ただし、若者には少し違うところがあります。柔になったのかもしれません。あるいは素直になったとも言えるでしょう。成果が大きく違うポイントがあります。明らかな差がつくことを、何度も見てきました。おそらく間違いないことでしょう。

あまりに大きな違いに人事の人が戸惑っているのではないかと思うくらい、同じ若者が全く変わります。圧倒的な成果を上げる場合には、2つの要因が必要です。1つは、先にふれた「誰に」ということ。もう一つは、その誰の態度が問題になります。

自分が大事にしている人が見ていてくれるという意識が、若者を動かすようです。口だけでなくて、じんわりと気がつく何ものかをある人から感じたとき、飛躍する若者が確実に出てきます。この人のためならという意識が芽生えるのかもしれません。

リーダーの条件として、ドラッカーもたびたび書いていました。『現代の経営』に[経営管理者であるということは、親であり教師であるということに近い](下:p.221:選書版)とあります。この人のためならと思わせるだけの人物たることが求められているのです。

もう一つは、米長邦雄が『人生 一手の違い』に書いていた例が、典型的なものだと思います。練習熱心なのに、伸び悩んでいた若手の棋士のことを心配して米長が声をかけたところ、意外なことがわかりました。棋士のお母さんという人の考え方が問題でした。

この棋士の母親は、[「この世に生まれてきた人間は、すべて神の子だから、神と自分との関係が大事で、それに比べれば、そのほかのことはどうでもよいことだ」という生き方らしい](p.44)ということがわかったのです。米長はあきらめました。

▼強くなり、勝負に勝ち、昇段していく当人がうれしいのは、誰しも同じである。しかし、自分の親が、それを喜んでくれるのと無関心なのとでは、天と地ほどの差がある。
誰かに喜んでもらえるのが励みになる、それが、神ならぬ人間の素直な心情だと思う。 (p.44:『人生 一手の違い』)

この人だと思った人が、自分の成果や成長を喜んでくれるかどうか、それによって大きな差が生まれるのです。やはり、『あなたに褒められたくて』というのは特別なことではないでしょう。私には、若者が素直になっただけだとしか思えないのです。

 

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