■リーダーの資質・組織の資質:その3


1~3…はこちら
4~6…はこちら

7 感性の時代という流行語

理路整然とした考えを持つだけでなく[機会とタイミングに「知覚」を持つ人]がリーダーの条件であるとドラッカーは語っています。[「今の製品を守ろうとするあまり、新しい製品を犠牲にしようとしているのではないか」といえる人]がリーダーです。

リーダーは、組織の人たちに、自分の考えるイメージを伝える必要があります。こうした場合、どういう形式でイメージを表現したらよいのか、単純に決められることではありません。定量的に示すことのできる領域は狭いのです。そこに落とし穴があります。

▼表現手段の多様化、視点の差異化は、しばしばそれ自体が目標となり、そのとき思想不在のアリバイ作りが始まる。そのようなアリバイ作りの最新のスローガンが、「感性の時代」という流行語である。 9ページ:村上泰亮『反古典の政治経済学・上』

まさに感性の独り歩きが曖昧さの原因です。村上は「感性」の意味を確認しています。[単に感受性 sensibilityであり、形や色や音に対する一瞬の知覚 perceptionの鋭さということにすぎない]ということです。感性だけでは思想になりません。

知覚が大切だというだけでは、まだ何かを言ったことにならないということでした。何において知覚が大切なのかが示される必要があったのです。ドラッカーが「機会とタイミング」を決定するときに知覚が大切になるのだと、指摘した点は重要なことでした。

 

8 検証可能な知覚

ビジネスにおける機会とタイミングが正しいか正しくないかは、成果に大きな影響を与えます。私たちはあとから振り返って、リーダーの「機会とタイミング」の判断が正しかったかどうか、検証することが可能です。意思決定の正しさの判定が求められています。

全てのデータや情報がそろわないのがビジネスの世界です。理路整然と判断できる環境がいつも整っているのならば、リーダーは不要です。判断材料に不足がある中で判断することが求められます。このとき、論理以外の判断要素を認めないわけにはいきません。

こうした判断について、事前にどの程度正しいかを客観的に評価することは、ほとんど不可能でしょう。しかし事後ならば可能です。リーダーが知覚の力を使って判断した「機会とタイミング」がどんな風に、どの程度正しかったのかを明らかにすることができます。

リーダーの場合、感性を主張するだけでは済まずに、「今の製品を守ろうとするあまり、新しい製品を犠牲にしようとしているのではないか」ということが正しく判断できたかどうかが問われます。そのため論理性の有無よりも、検証可能であることが重要なのです。

 

9 成果による評価

組織のミッションとは、自分たちがどういう存在であるべきか、どういう存在であると記憶されるのがよいかを示すものです。すぐれたミッションを掲げるには、「存在するものを理解するためのパターン認識」をもつことが必要不可欠といえるでしょう。

ミッションから目標が生まれることが大切だとドラッカーは言いました。目標を達成するための構想、ビジョンが戦略でした。ミッションも、ビジョンや戦略も、論理性だけでは構築できるものではありません。やはり知覚の力が必要になります。

村上は[形や色や音に対する一瞬の知覚]などの[感性(感受性)の力が最もよく発揮されるのは、世界イメージの中に何らかの亀裂を感じ取るとき](p.9:『反古典の政治経済学・上』)だと言います。まさに変化を機会とするビジネスに不可欠なものなのです。

しかし同時に亀裂を感じるだけでは[ただの断片」であり、切り離された部分でしかありません。そうではなくて、全体のイメージを持つことが必要になるのです。リーダーには「自分で見て考えて筋道を作っていこうとする積極的姿勢」が求められています。

村上は「しっかりした自分の考えを持つ」ことが思想だと言いました。[思想に要求される一貫性]を持たせる責任がリーダーにあるのです。こうした一貫性のあるものがミッションに結実し、そこから適切な目標が生まれていくことになります。

ビジネスには知覚が必要であり、機会とタイミングの判断に不可欠なものです。事後の検証が可能であり、リーダーも客観的に評価される対象になります。一貫性のあるミッションや目標設定の評価も、成果によって検証が可能になるのです。

組織がリーダーの資質をしっかり検証し、その役割を適切に評価することが要求されます。これが組織の資質であるというべきでしょう。リーダーがスーパーマンである必要はありませんが、成果による評価に堪えるだけの資質は求められるということです。

 

カテゴリー: マネジメント パーマリンク