■戦略的思考:マネジメントを変えさせたもの その2


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4 三人の石工:『現代の経営』

ミッションというのは仕事の目的です。企業という組織の目的は顧客の創造であり、顧客の獲得のために指針が必要になります。それが仕事の目的であり使命・ミッションであるということでしょう。目的を叶えたというための判断基準になるものが目標です。

仕事の目的は、こうやって働かなくては楽しくないとか、こうやって成果をあげなかったら、意味がないというニュアンスを含みます。このあたり、あるいは当然のことかもしれません。ただ意外に見落とされているのが3人の石工の話との関連です。

▼マネジメントのセミナーでは、何をしているのかを聞かれた三人の石工の話がよく出てくる。一人は「これで食べている」と答え、一人は手を休めずに「国でいちばん腕のいい石工の仕事をしている」と答え、一人は目を輝かせて「教会を建てている」と答えたという。 p.181:『現代の経営・上』選書版

ミッションは、自分たちの仕事がどう記憶されたいのかを考えることによって決まります。最高の仕事をしたというよりも、教会を建てよう…の方がミッションにふさわしいということです。この指とまれというときに、人が集まるものだといえるでしょう。

教会を建てるときに、どうすれば記憶されるのにふさわしいものになるか、その構想を立てるのが戦略です。圧倒的な仕事をする場合、プロ中のプロが構想を立てて、それに理解を示すプロフェッショナル、知識労働者が参加してくれるのが理想です。

 

5 三人の石工:『マネジメント』

3人の石工の話は、『マネジメント・中』の第34章「自己目標管理」でも言及されています。お話はほぼ同じ内容です。これにドラッカーがコメントをつけています。[組織のマネジメントやスペシャリストの多くが、自らの専門を重視する]。

▼だが、そのような専門別、職能別の人間の数は最小限にとどめるべきである。全体をマネジメントし、全体の成果に責任を持つマネジメントの人間の数を増やさなければならない。しかし、たとえこれを原則として最大限に適用したとしても、マネジメントの人間の多くはそれぞれの専門分野で働くことになる。
そもそもマネジメントの人間としてのビジョン、価値観、考え方は、専門的な仕事において形成されている。 p.71

『現代の経営』でのコメントに比べれば、理解できる内容になっています。しかし1980年代後半からのドラッカーと違って、「教会を建てよう!」がミッションであるという認識が抜け落ちているようです。リーダーがミッションを作るという要素がありません。

まだ1973年の『マネジメント』では「専門別、職能別の人間」と「全体の成果に責任を持つマネジメントの人間」が対立的に扱われていたのです。こうした考えからの転換が明確になったのが、前に言及した1989年の「会社はNPOに学ぶ」でした。

この論文でドラッカーは「やりがい、成果、責任、使命」といったものがプロフェッショナルの人間を本気にさせるのだという考えを示しています。プロ中のプロというべき個人の役割と、プロ集団というべき存在に焦点を当てて、その重要性を示しました。

 

6 「個人の資質」と「組織の資質」

大前研一の場合、「人材次第」という言葉を使って個人の役割を、ドラッカー以上に大きく見ているように感じます。2010年の記事で大前は[『新・資本論』以降、私は「パーソン・スペシフィック(人材次第)」という言葉を使うようになった]と記しました。

『新・資本論』という本は2001年に出版され、英文の[The invisible Continent]を翻訳したものです。この本の第4章は「目覚めよ 企業参謀―戦略は根本から変わった」となっています。ここにも『企業参謀』における企業戦略の定義が示されているのです。

今度は、[戦略とは、『企業』が『顧客』のニーズをよりよく満たせるように自社の強みを利用し、『競合』よりも優位になるような差別化を持続的に達成する努力である]となっています。新装版のもののようです。「強み」「差別化」が加わっています。

こうした定義の違いがあることに加えて、ここで問題にしたいのは、個人の資質についての記述です。大前が上記の雑誌で、[『新・資本論』以降、私は…]と言っていますが、実際のところ、『新・資本論』にどういう内容が記されているでしょうか。

▼重要なのは経営者個人の資質ではない。それよりも、組織の中で日々実践され、奨励される戦略的思考の質である。 p.186:『新・資本論』

大前の話には矛盾があるようです。2つの可能性が考えられます。一つは、大前のいう「以降」に『新・資本論』が含まれず、そのあとからが「以降」になる。もう一つは、この部分は「個人の資質【だけ】ではない」と解釈するのが正しいとすることです。

おそらく後者でしょう。CEOが受け継いだ組織によって、急成長する企業(大前はゴジラ企業と呼ぶ)になるかどうかが決まると書いています。引用直前に、ジャック・ウェルチが化学産業に残っていたら、ゴジラ企業をつくったろうと記していました。

「経営者個人の資質」だけでなく、「組織の資質」が問題になるということです。急成長する[ゴジラ企業は、まるで生まれたときから異なった存在になるよう運命づけられていたかのように、そうした能力や資質を持っているのだ](p.206)とあります。

 

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