■戦略的思考:マネジメントを変えさせたもの

1 戦略的思考=戦略+構想力

大前研一は企業戦略について、「競争相手との相対的な力関係の変化を、顧客の望む方向に自社にとって相対的に有利かつ持続できるように変化させるべく計画する作業」と定義しました。1976年の『企業参謀』のものだといいます。いささかわかりにくいです。

内容を確認してみましょう。誰が行う作業かと言えば、「自社のリーダー層が」なのでしょう。何についてかと言えば、「競争相手との相対的な力関係」をです。どうするのかと言えば、「自社にとって相対的に有利かつ持続できるように」することになります。

戦略とは、リーダー層が、市場で自社が持続的に優位を保てるようにすること…と言うべきもののようです。「自社にとって相対的に有利かつ持続できる」構想が出来れば、目標が立ちます。「計画する作業」とは、構想を立てるということでしょう。

2010年に大前は、[21世紀の経済社会で戦略を展開するには構想力が必要だ]と語りました。このとき[戦略の役割よりも構想力の役割の方が重い]と指摘しています。それでは「戦略」+「構想力」を指す概念は…とみていくと「戦略的思考」とありました。

雑誌の特集名は[「戦略人間」講座!](PRESIDENT 2010.11.1)です。この特集においても、戦略という言葉をきっちり定義して使わずに、多義的な意味で使っています。厳密な定義は困難でしょうし、あえて厳密な定義をする必要もないでしょう。

戦略の本質は構想あるいはビジョンを創る力といえます。ポイントは、戦略が立ったならば、明確な目標が立つということです。「自信とうぬぼれは同じだ」と言った西堀栄三郎流に言えば、「戦略と構想、ビジョンは同じだ」ということになります。

 

2 個人の資質がものをいう「構想力」

戦略を立てるときに構想力が重要だということは、どんな効果、結果を生み出すでしょうか。大前は重要な指摘をします。構想力のように[見えないものを形にする能力というのは、芸術家や音楽家の世界と同じで個人の資質や素養が大きくものをいう]。

企業戦略が変容せざるを得ません。[構想力が問われる今日の戦略というのはまさにパーソン・スペシフィックで、要は、「どの人間がやるか」にかかっている]というのです(「PRESIDENT」 2010.11.1)。こう考えるなら、マネジメントの中核が変わります。

個人か少数のリーダーたちが大きな影響を持つようになる背景には、知識労働者の比率が増えて、働く人たちのプロフェッショナル化が進んだということもあるでしょう。分析だけでは先が見えなくなっているということも影響していると考えられます。

ドラッカーは『テクノロジストの条件』所収の「未知なるものをいかにして体系化するか」で知覚の重要性について書いています。これは1957年の文章でした。しかしその時点では、どんな風に重要になるのか、明確な内容が示されていたわけではありません。

『未来への決断』所収の1993年のインタビュー「ポスト資本主義社会におけるエグゼクティブ」で、[機会とタイミングに「知覚」をもつ人]が必要であると答えています。「機会とタイミング」は戦略の重要な評価基準です。このことと無関係ではないでしょう。

構想が個人の資質や素養に依存するならば、[社会や知識のすべての領域にわたるものではなく、一つの狭い領域についてのもの]になるのは当然です。狭い領域に焦点を絞るという点に[活力の源がある](p.263 『創造する経営者』)ということになります。

 

3 個人の信念が中核となる「ミッション」

ドラッカーのマネジメント体系が1980年代の後半から変化を見せているのは、いくつかの論文を読めばわかります。その一つが1989年の「会社はNPOに学ぶ」(『ドラッカー経営論集』所収)です。この論文では「知識労働者の生産性」を問題にしていました。

NPOでの活動で、働く意義を見出す知識労働者、プロフェッショナルが多くいました。それはなぜであるのか、その点について、この論文で焦点を当てています。能力のある人たちを集めるための指針にもなっています。以下の項目が必要ということでした。

(1) 使命(ミッション)の明確化を行う
(2) 人材の的確な配置を行う
(3) 教え・学ぶの継続学習を行う
(4) 目標の自己マネジメントを求める
(5) 高い要求水準に見合う責任と権限を与える
(6) 仕事と成果に対する自己責任を求める

1990年の『非営利組織の経営』も同じように、プロフェッショナルの生産性を上げるという観点から読まれるべきでしょう。この本では、ミッションがどんな概念であるかが示されています。個人の信念が中核に置かれるという点が重要になるということです。

▼何を心底信じているかである。その意味では、使命とは、個人を離れた一般的なものではありえない。固く信ずることなしに物事がうまくいったためしはない。 p.11 『非営利組織の経営』1991年版

『マネジメント』(1973年)で、目標に関する5項目をあげたドラッカーは、最初に目標とは[ミッションを実現するための決意であり、成果を評価するための基準である]と記しました。ミッションも目標を生み出す構想も、個人的な資質に関わるもののようです。

 

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