■ドラッカーのポストモダン概念:「全体と部分」および目的について:その3


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7 ポストモダン概念に対するドラッカーの注釈

ドラッカーは1957年に「未知なるものをいかに体系化するか」(『テクノロジストの条件』所収)の中で、ポストモダンの世界を一筆書きしました。それを振り返るとき、その後の論文などでの発言が、注釈になっているのを感じることがあります。

▼重要なものは、道具ではなくコンセプトである。宇宙、構想、知識には秩序が存在するはずであるとする世界観である。しかもその秩序は形態であって、分析の前に知覚することが可能なはずであるとする信条である。その知覚がイノベーションの基盤になるとの考えである。そして最後に、その知覚は未知なるものの体系化によって一挙に獲得することができ、そこから新しい知識と道具を手に入れることができるとする確信である。 p.16:『テクノロジストの条件』

「道具ではなくコンセプト」が重要だという点、1992年の「組織社会の到来」に、社会やコミュニティは環境であり、組織は道具だとあります。組織のコンセプトとは目的・使命ですから、[組織は一つの目的に集中してはじめて大きな成果を上げる]のです。

ポストモダンの世界には[宇宙、構想、知識には秩序が存在する]という点については、
ポストモダンのマネジメント体系を見れば明らかでしょう。「宇宙のなかの目的」たる使命から目標が生まれ、目標からアクションプランが生まれる秩序が形成されています。

[秩序は形態であって、分析の前に知覚することが可能なはずであるとする信条]についてはどうでしょうか。『未来への決断』の序章に置かれた「ポスト資本主義社会におけるエグゼクティブ」という1993年のインタビューに、以下の説明があります。

▼経営管理者とは資源を統合する人であり、機会とタイミングに「知覚」をもつ人だ。
これからは、分析よりも知覚が重要になる。組織を中心とする新しい社会では、期待するものよりも、存在しているものを理解するためのパターン認識の能力の方が重要となる。「今の製品を守ろうとするあまり、新しい製品を犠牲にしようとしているのではないか」と言える人が、これまで以上に必要となる。 p.12:『未来への決断』

 

8 理解のためのパターン認識

ドラッカーは知覚が重要になると繰り返し言いました。見聞きして、何かを感じ取ることが必要となります。何を感じ取ることが必要なのか。ビジネスにおいては[機会とタイミング]だということです。データがなくても判断しなくてはならないことがあります。

とくにビジネスにおいて大切になるのが、進むべき道に機会があるのか、いまがそのタイミングであるかという判断です。この点、人間は分析するのに十分なデータがそろっていなくても、かなり正しい判断ができます。これが知覚の働きというべきものです。

[秩序は形態]だということも、このインタビューで答えとなるものが見えてきました。秩序というべき「形態」を捉えるためには、分析するのではなく、パターンの認識が必要になります。[存在しているものを理解するためのパターン認識]ということです。

これがあれば、従来からの製品を改善して発展させていくよりも、もはや新しい製品で勝負しなくてはいけないという認識が生まれてきます。従来からの連続的な発想では役に立ちません。このとき役立つのは分析ではなく、知覚であるということになります。

従来からの延長線上で考える発想を捨てて、[機会とタイミングに「知覚」をもつ]ならば、[その知覚がイノベーションの基盤になる]のは当然でしょう。1957年の「未知なるものをいかに体系化するか」はポストモダンの一筆書きとしていまだに重要なのです。

 

9 秩序の逆転:コストと価格の場合

モダンの世界からポストモダンの世界への移行により、発想の転換が必要になりました。部分と全体の関係が逆転したのです。部分から全体が発想されていたモダンの世界から、全体から部分を発想するポストモダンの世界にとってかわられました。

ビジネスの世界では、コストと価格の関係が逆転したことも重要な点でした。[コスト主導の価格設定から価格主導のコスト管理に移行する]ということです。1995年の「エグゼクティブが必要とする情報」(『未来への決断』所収)でドラッカーは言います。

▼昔から欧米の企業は、コストからスタートし、これに利益幅を上乗せして価格を設定してきた。すなわち、コスト主導の価格設定を行ってきた。
しかし、シアーズ・ローバックやマークス・アンド・スペンサーだけは、はるか昔から価格主導のコスト管理を行っている。すなわち、まず顧客が進んで支払う価格を設定し、商品の設計段階から、許容されるコストを明らかにしている。これらの企業は、かなり最近まで例外的な存在だった。しかしいまでは、価格主導のコスト設定のほうが一般化しつつある。 p.145:『未来への決断』

製品やサービスの値段を先に決め、それを実現するために工夫を重ねるということです。こうした傾向は、顕著でしょう。そのため[事業のプロセス全体を把握し管理することが必要]です。ここでも全体が先で、そのあとに部分が決まるという秩序があります。

全体が決まらない限り、部分が決まらないケースが増えています。同時にこの流れの逆を行く発想もまだ、かなりの程度残っていることも間違いありません。1957年の一筆書きが役立つ場面はありそうです。その注釈とともに、意識する価値があると思います。