■目標について:エディー・ジョーンズの考えを参考に その2


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4 ミッションの中核的な要件

ミッションから目標が生み出される場合、目標が何だかワクワクさせる内容になっています。できたならすごいと思われる目標が実際に達成できたら、本当に素晴らしいことです。そういう目標を作るためには、ミッションを意識する必要があります。

ミッションというためには、ドラッカーが『非営利組織の経営』で示した要件が不可欠になるでしょう。リーダーが自らの信念に基づいて定めるものがミッションです。これが中核的なミッションの要件になります。これは『マネジメント』にはなかったものです。

『マネジメント』にも素晴らしい事例があります。すでに財を成していたはずのサイモン・マークスが渡米してシアーズの成功を目にしました。このとき自分たちの事業の目的とミッションを検討し直したのです。「マークス&スペンサー物語」にあります。

▼同社は、自分たちのミッションは勤労者階級に対し、上流階級の品物を上流階級のそれよりも優れた品質と、彼らにも手が出せる価格で提供することによって、イギリスの社会階級を打破することであるとした。 p.124 『マネジメント』エターナル版

この文でミッションというべきなのは、[イギリスの社会階級を打破すること]です。そこに事業の定義を構成するミッション以外の要素が加わった形です。『マネジメント』では、事業の定義、企業の目的、ミッションの概念が明確になっていません。

[「われわれの事業は何か」を明らかにするには、確固たる方法論が必要である][具体的かつ中核的なものに焦点を合わせたものでなければならない][企業の目的とミッションを定義するとき、このような焦点となるものは一つしかない。顧客である](p.99)。

以上には「リーダーの信念に基づいた決定」というミッションの要件がないのです。事業の目的とミッションを明確にする概念についての説明もありません。とはいえ「マークス&スペンサー物語」にある話は、まさにミッションの事例というべきものです。

 

5 エディー・ジョーンズの信念

『ハードワーク』における目標が際立っているのは、エディー・ジョーンズがミッションを持っていたからです。自分のミッションはこうだとは書いていません。しかし、リーダーであるジョーンズには信念がありました。『ハードワーク』を見てみましょう。

[日本人は、ものすごい底力をもった民族です](p.4)。[日本のラグビーは、世界で通用しなかった](p.17)。[世界で勝てる強いチームになり、日本のラグビー文化を変える](p.17)。[日本は、そんな弱弱しい国ではないはずです](p.31)。

もう明らかでしょう。ジョーンズは[選手たちの中に眠った、日本人本来の力を、どのようにすれば目覚めさせられるか](p.33)を考えていました。[日本人は、再び強くならなければならないと思ったのです]。ジョーンズには、目標に先つ信念がありました。

目標は「君たちは、これから世界のトップ10に入る! そして、3年後のワールドカップに、必ず勝つ!」です。目標を見れば、その背景のミッションが見えてきます。「日本のラグビーを世界で通用するレベルにすること」がジョーンズのミッションでしょう。

こうしたミッションがあったために、目先の勝敗にこだわる必要がなくなります。勝つことは必要なのです。しかしもっと大きな視点がありました。ビジネスの場合でも、売上と利益の確保は不可欠です。しかし、それだけでは物足りないことがあるはずです。

 

6 目標の要件

ジョーンズは日本代表のヘッドコーチになる前に、すでに日本で指導する経験を持っています。そのため、日本チームにもっと力を発揮させることができたら、どこまでいけるかを冷静に判断することができたのでしょう。それが目標になりました。

ジョーンズは目標の要件をあげていました。目標は客観的でなくてはなりません。「数字などで具体的に表現され、結果が出たとき達成できたかどうか、はっきりわかるもの」(p.16)が必要です。しかし、これだけでは不十分だと言います。

▼目標は、「そんなことができる訳がない」と思えるほど、大きなものを掲げるべきです。
手の届きやすい目標は、すでにある自分の力から、予想したものでしょう。それでは「眠った力」を呼び覚ますことは、できません。いままでに感じたことのない熱意を覚えたり、100パーセントの努力を傾けたりすることはないでしょう。 p.18

ミッションから生まれる目標の場合、目標自体が現在の延長線上のものではなくなります。勝ち負けや売上・利益の目標とは別の要素が問われ、その結果、今までとは違った種類の目標になるはずです。このとき目標は、しばしば高い目標になります。

こうした高い目標は、スポーツの場合や変革のときのものなのかもしれません。高い目標を掲げることは大切です。しかし同時に達成に関するリスクを負うことになります。反復・継続されるビジネスの目標の場合、どう考えたらよいのでしょうか。