■ミッションとはどういうものか その3


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7 「ビジネスの理論」の中核

『非営利組織の経営』では[組織の価値観](p.10 選書版)という言葉が使われていました。自分たちの価値観ですから、シンプルなものになっているはずです。その価値観に基づいたミッションが、具体的な目標の指針となるのは自然なことでしょう。

「ビジネスの理論:The Theory of the Business」では、ミッションに加えて、ビジネス環境、さらに自分たちの中核的な卓越性を確認することが必要とされています。これらを確認してみると、その中心となるのは使命・ミッションであることが見えるでしょう。

ミッションがきちんと固まったなら、「環境、使命、強み」のすべてが自ずから適合するようになるかもしれません。中核的な卓越性というべき強みは[使命を達成するために必要とされる](p.162 『P.F.ドラッカー経営論集』)ものでした。

[組織をとりまく環境](p.162)を検討することは、ミッションに必要な「機会、能力、信念」のうちの「機会」を検討することです。これは[外部に目を向けて、機会、つまりニーズを探らなければならない](p.10 『非営利組織の経営』)ことでもあります。

「ビジネスの理論」の中核には、ミッションがあるのです。少なくともドラッカー・マネジメントの晩年の到達点を考える場合、営利、非営利を超えた組織全体のマネジメントにとっての中核的概念といえるのは、使命・ミッションだろうと思います。

 

8 「何をもって記憶されたいか」

ミッションというものが、どういうものであるかを考えるとき、次の言葉が大切になるでしょう。[使命とは、個人を離れた一般的なものではありえない。固く信ずることなしに物事がうまくいったためしはない](p.11 『非営利組織の経営』)ということです。

したがって、ミッションの達成にともなう社会的な貢献を考慮にいれるにしても、その前提となるのは、個人的な信念だということになります。こういうとき、どう考えたらよいのか、ドラッカーはその前提について、以下のように記しました。

▼われわれは気質や個性を、軽んじがちである。しかし気質や個性は、訓練によって容易に変えられるものでないだけに、重視し、明確に理解しておくことがきわめて重要である。 p.239 『非営利組織の経営』

こうした認識があるからこそ、「一人の人間として、自分は何に向いているか」を考えるようにと言うのです。これは、自分自身を開発するときの、あるいは自分にふさわしい仕事につくときの[基本的な問い](p.239)になります。

さらにミッションを考えるときに。ドラッカーは魔法のような問いを用意していました。「何をもって記憶されたいか」です。『非営利組織の経営』第5部2章の章題になっています。他人から、自分がどういう人間であると記憶されたいかを問えということです。

自分がどういう人間であると、他人に主張するのではなくて、人からどう記憶されるかを考えながら、自分の生き方を考えることが必要なのだということです。自分の視点だけではなく、外からの視点を含めて考えるための重要な問いだといえます。

▼私は、いつもこの問い、「何をもって記憶されたいか」を自らに問うている。これは、自分自身を刷新することを促す問いである。この問いは、自らを異なる人物として、つまり、そうなりうる人物としてみるよう仕向けてくれる。 p.248

 

9 ミッションの3つの条件

私たちはミッションを考えるときに、自分たちは「何をもって記憶されたいか」を問う必要があります。ドラッカーはこの問いを、ミッションを考えるための問いとはしていません。しかしミッションの概念を見れば、この問いこそが中核になると気づきます。

自分がこうなりたいと決めたら、それで十分だという考えもあるでしょう。しかしドラッカーの問いは、そこに他者を介在させます。自分がどういう人間とみられるかという外側からの視点を入れることによって、社会への貢献まで考えることができるのです。

ここで自分や自分たちを記憶してくれる人たちは、すべての人というよりも、自分にとって大切な人たちでしょう。その人たちに、どう記憶されたいのかを中核にして考えていくことによって、組織のミッションが適切なものになっていくのです。

このとき、[管理者がなすべきことは、こうして組織の使命と定めたことを、さらに個別具体化していくことである](p.8 『非営利組織の経営』1991年版)。そのため組織の人たちと使命・ミッションの共有が必要になります。これだけで十分でしょうか。

ミッションを定めた後にどうすべきかについて、「ビジネスの理論」(『P.F.ドラッカー経営論集』)に記された「事業の定義」の「4つの条件」が参考になります。2番目の相互適応に関する条件を除くと、必要となるのは、以下の3つの条件です。

(1)[現実に適合しなければならない]こと(p.163)。
(2)[組織全体に周知徹底させなければならない]こと(p.164)。
(3)[つねに検証していかなければならない]こと(p.165)。

事業の定義にしろ、使命・ミッションにしろ[仮説にすぎない](p.165)のです。現実に適合しているか、内容が適切かということを、全員でつねに検証していくことが、ミッションを適切にしていくために不可欠であるということになります。

 

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