■ミッションとはどういうものか その2


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4 ビジネスの理論:The Theory of the Business

ミッションに必要なものは「機会、能力、信念」の3つだとドラッカーは書いています。これによってミッションの必要条件はわかりました。しかし、どうやってミッションをつくっていけばよいのでしょうか。これは簡単ではありません。

外部の環境に目を向けて機会を見出すということは、ドラッカー・マネジメントの基本ともいうべきものです。さらに能力が求められます。成果をあげる能力というべきでしょう。この点も、ドラッカー・マネジメントの基本と言えるものです。

ドラッカーはその後、これらを発展させた論文を書いています。1994年に書かれた「The Theory of the Business」です。ドラッカーの後期を代表する論文と言ってよいでしょう。この論文を手がかりにして、ミッションについて考えていきたいと思います。

「The Theory of the Business」という題名の論文は、一般に「企業永続の理論」と呼ばれています。英語をそのまま訳すと「ビジネスの理論」という題名になりそうです。『P.F.ドラッカー経営論集』では「事業の陳腐化」という題名になっています。

この論文の[事業の定義は三つの要素からなる](p.162)点の解説が参考になるかもしれません。ここにあげられた三つとは「環境、使命、強み」(environment, mission, and core competencies)です。見ておく必要があると思います。

 

5 必要となる外側からの視点

『非営利組織の経営』の1章「ミッション」は10頁足らずの分量です。ここだけを読んでも、ミッションのつくり方がなかなかわかった気になりません。この本から4年後に書かれた「ビジネスの理論」でも言及はわずかですが、ヒントになりそうな点があります。

「組織の使命」の部分に、[シアーズ・ローバックは、第一次大戦中から戦後の数年にかけ、一般家庭のためのバイヤーとなることを使命とした](p.162)とあるので、ここでの使命・ミッションは『非営利組織の経営』と同じだと考えて問題ないでしょう。

ではミッションとは、どんな実質をもっているのでしょうか。ドラッカーは[使命についての前提は、組織が何を意義ある成果とするかを明らかにする。経済や社会に対しいかに貢献するつもりかを明らかにする](p.163)と記しています。

ここでミッションとは、組織が経済や社会のなかで「どう活動していくつもりなのか」に関わる概念だと言っているのです。内側からどうするかを考えるだけでなく、外側からの視点も加味した、社会への貢献を前提とする概念だということになります。

ミッションとはどうやら、「自分たちは何をしたいのか」という観点だけでは成り立たないもののようです。それによって社会に対して、「自分たちはどんな貢献ができるのか」ということまで考えたうえで作らないといけない概念だということでしょう。

 

6 「患者を安心させる」というミッション

それでは、組織は社会に対してどんなことをすればよいのでしょうか。ドラッカーは[必ずしも野心的である必要はない](p.162)と書いています。世の中を大きく変える野心的な貢献をうたい上げなくても、ミッションになるということです。

そういえば、『非営利組織の経営』でドラッカーが関わった病院の救急治療室のミッションは「患者を安心させること」でした。[簡潔にして明瞭、かつ直截な使命の表現である](p.6:1991年版)とドラッカーも自賛しています。

緊急の場合に、ひとまず安心できる病院があったなら、患者にとってありがたい存在にちがいありません。安心のために[最も大事なことは、必ず患者を診ること、それも、直ちに診ることである。これしか、患者を安心させることはできない](p.8)のです。

▼この「安心させる」という使命を実行するということは、患者は誰でも必ず一分以内に、しかるべき医者の診察を受けられるということを意味する。これこそが使命であり、目標である。あとは実行に移すだけである。 p.7

こうなると間違いなく、この救急治療室の存在は、社会にとっても必要なものになります。何かあったときに頼れる施設があることは、患者になる可能性のある大勢の人たちにとっても、安心感を与えてくれることでしょう。これは意義のあることです。

自分たちが抜きんでているところを、どう活かしたらいいのか、これを見つけることは簡単ではありません。[使命は簡潔、明瞭でなければならない][それほどたくさんのことができるはずないのだ](p.8)ということになります。

 

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