■ビジネスモデルと運用ルール:ドラッカーと梅棹忠夫 その3


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7 規模の最適化

ドラッカーは情報が世界観を変えると書いています。世界観の変化によって、組織のありかたが[命令と統制]から、[情報によって一体性が保たれる]形になっていかざるを得ないのです。そうなると組織の規模は、機能に応じたものになっていきます。

▼それぞれの仕事にふさわしい大きさがあり、生態系がある。組織にとって最適な規模とは、機能や仕事に必要な情報を最も有効に扱える規模である pp..232-233 『テクノロジストの条件』

ドラッカーは、その仕事にふさわしいのが[ミツバチか、ハチドリか、ネズミか、シカか、ゾウか]と問うています。機械的な世界観に基づくと、どうしても大きいことがよいことになりがちです。しかし[機能に適した規模が課題となる]でしょう。

たとえば同じ製品でも、デザインを変えるだけで売れ行きが変わることがあるはずです。デザインを考えるのに、おおぜいで取り組むのがよいのか、少数で取り組むのがよいのか…が問題になります。少数のプロに任せたほうが上手くいく分野があるはずです。

いまや、売れ行きの情報は容易に得られます。成功した場合、その要因の分析が必要です。同時に、その成功要因を補強するのに、どうするのがよいかを考える必要があります。ビジネスモデルを考えるとき、規模の最適化がつねに問題になるということです。

 

8 目的と自己発展

ビジネスでは、仕事の目的が問われることがあります。この「目的」がなかなかの曲者です。「未知なるものをいかにして体系化するか」の中でも、[秩序とは、全体の目的に沿った配置のことである](p.8)と書いていました。

しかし[目的は形態そのものに内在する。それは形而上のものではなく形而下のものである。宇宙の目的ではなく宇宙の中の目的である](p.8)というのはどんな意味なのでしょうか。ドラッカーも[真意をいまだ十分には理解していない](p.9)と書いています。

梅棹忠夫は率直に[生態系は、目的などなくても自己発展する]と1984年に「近代世界における日本文明」(『比較文明学研究』)で記しました。梅棹の[目的]がドラッカーのいう[宇宙の目的]であり、[自己発展]が[宇宙の中の目的]のようなのです。

ここでいう[自己発展]の方向を梅棹はおそらく[すべての人間の共通ののぞみ]と捉えています。現代においては「よりよいくらし」というのが梅棹の見立てです。対象とする概念の大きさが問われます。梅棹のいうのは文明の[自己発展]ということです。

文明というマクロの世界に目的などないと考える方がすっきりします。文明という大きな概念における自己発展の方向は、よりよい文明であり、よりよい暮らしということでしょう。この点で、組織は社会の一因としての存在であり、ミクロというべき存在です。

組織の自己発展の方向を問うならば、よりよい組織であり、よりよい仕事ということになるでしょう。では、ミクロたる組織において、目的は必要ないのでしょうか。あるいは目的という概念は、どういうものになるのでしょうか。

 

9 ミクロ的基礎と運用ルール

金森久雄はドラッカーを[ケインズやシュムペーターによって築かれたマクロ理論に、「企業」というミクロ的基礎を与えた]と評価しています。ミクロ的基礎たる企業あるいは組織において、ドラッカーは目的が必要だと考えているようです。

マクロ的な視点で見ると、すべての組織の共通ののぞみは「よりよい組織」だと言うこともできるでしょう。しかしそれだけでは不十分だということになります。ミクロ的基礎というべき各組織には、もっと明確なものが必要になるということです。

1990年の『非営利組織の経営』では、目的という用語のかわりに「使命(ミッション)」という用語が使われています。この言葉は、ドラッカーが1957年に使っていた目的という言葉と一致しているわけではありません。発展した概念だと見るべきです。

▼使命の表現は、それに基づいて現実に動けるものでなければならない。そうでなければ、単なるよき意図の表明に終わってしまう。使命の表現は、その機関が現実に何をしようとしているのかに焦点を絞ったものでなければならず、その組織に関わる一人一人が、目標を達成するために自分が貢献すべきことはこれだ、といえるようなものでなければならない。 p.7 『非営利組織の経営』1991年版

組織を作る目的、そこで何がしたいのかということを定めたものが使命です。ある病院では「患者を安心させることがわれわれの使命である」と定めました。これを[さらに個別具体化していくこと](p.8)から目標が生まれてきます。

ビジネスモデルを作り、個別具体化した仕事をするときに、運用ルールが問題になります。[目標の有効期間は短い。個別具体的な使命が達成されたがゆえに、目標が大きく変わってしまうこともある]。そのため運用ルールをつねに見直す必要があるのです。

 

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