■ビジネスモデルと運用ルール:ドラッカーと梅棹忠夫 その2


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4 体系化の対象となる世界観・文明

ドラッカーが論文「未知なるものをいかにして体系化するか」で体系化の対象としたのは「未知なるもの」というべき「名もない新しい時代」でした。それは「われわれの世界観」「ポストモダン(脱近代合理主義)の現実」「新しい現実」といえます。

ドラッカーが対象としたのは、ビジネスの世界というよりも、もっと大きな世界でした。われわれを取り巻く世界、その現実そのものが対象ということになります。こうした前提は1957年の論文においてだけでなく、その後も変わっていません。

『テクノロジストの条件』に所収された「分析から知覚へ」という文章は、1989年出版の『新しい現実』の中から採られたものですが、そこでの対象も世界観でした。「機械的世界観から生物的世界観へ」とあります。

[機械がモデルとされた時代]から[情報がシステムの動因となる時代][生物的なシステムの]時代へと変わったのです。[文明に与える影響において、システムの動因の変化を凌ぐものはない](『テクノロジストの条件』p.227)とドラッカーは書いています。

ドラッカーが対象としたものは、文明というべきものでしょう。そして梅棹忠夫が対象としたのが文明でした。ドラッカーのいうことを理解するときに、私の場合、知らず知らずのうちに、梅棹忠夫のいうところを踏まえていたようです。

 

5 装置・制度と起業家精神

梅棹は1984年に「近代世界における日本文明」(『比較文明学研究』)で生態系から文明系への展開を提唱しています。人間が[さまざまな精神的活動をおこなう]ようになったため、自然という[生態系というシステム]を超えたものをつくりだしました。

梅棹は、[人間と自然とで作り上げてきたシステム]から[人間と装置・制度がつくりあげたシステム]へと移行することを[生態系から文明系へ]と捉えています。人間の環境となった[装置・制度系]が文明のシステムだということでしょう。

梅棹は[われわれが生活し、われわれとともに存在しているこの世界というものを、気持ちよく認識する方法はなにか](『比較文明学研究』p.453)と問題提起しています。ドラッカーだけでなく梅棹の場合も「世界観」を問うているのです。

▼水車、風車の発明から700年後、パパンの蒸気機関が新技術をもたらし、機械的な世界観を生み出した。1946年には、コンピュータの発明によって情報がシステムの動因となり、再び新しい文明が生まれることとなった。 『テクノロジストの条件』 p.228

問題となるのは、装置や制度です。そしてドラッカーのいうように[今日、情報技術が生産活動にもたらす影響について多くのことがいわれている。しかし、社会そのものに与える影響こそ重大である。はるかに重大である](p.228)ということになります。

なぜ私たちは、こんなことを問題にしなくてはいけないのでしょうか。まさにこの点について、ドラッカーが書いています。[この種の変化は必ず起業家精神の爆発をもたらす]からです。間違いなくビジネスに大きな影響をもたらすことになるからです。

 

6 知覚的モデルへの転換

ビジネスをモデル化するときに、装置や制度をどう捉えるのかが問題です。その社会的影響を認識する必要があります。ドラッカーの著作の中には、そのヒントがたくさんあるのですが、しかし意味するところがわかったように見えて、どうもよくわかりません。

実際にモデル化を考えるとき、ドラッカーのいうことを頭に入れておくことは必要でしょう。しかしそれだけでは、どうも不安になります。梅棹の方法とその説明が必要不可欠なものでした。両者を合わせてみていくことによって、認識が明確になっていきます。

[技術とは、自然のものではなく人のものである]と書いたのはドラッカー(『テクノロジストの条件』 p.232)でした。技術は「装置・制度系」に属するものだから[人のもの]に違いありません。こうやって確認をしていくことが必要でした。

ドラッカーは言います。[技術は人間の延長であるがゆえに、その基本的な変化はわれわれに世界観の変化をもたらし、同時に価値観の変化をもたらす](p.233)。ビジネスに影響が及ぶのは、いうまでもなく[価値観の変化]があるからです。

コンピュータは[分析的モデルの勝利]でしたが、[コンピュータがわれわれを分析的モデルから卒業させた]のです。コンピューターによって[情報がシステムの動因となる時代]がやってきたため、情報というものが問題になりました。

情報の扱い方が問題になります。[情報は分析的であっても意味は分析的ではない。知覚的である]のです。分析的モデルから知覚的モデルへの転換が必要となります。これが組織のモデルに直結するのです。少なくともドラッカーはそう考えています。

 

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