■ドラッカー「未知なるものをいかにして体系化するか」について その2


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4 フッサールの現象学

ドラッカーは、モダンの測定手段が定量化であり、それだけでは内容の実質が把握できないと指摘しました。未知なるものを体系化するときの切り口が必要となるというのです。そのコンセプト作りが不可欠だということになります。

ドラッカーがこうした考えに立つのは、物事を把握するときに、部分に当たる各要素を集めて全体像を見出そうという発想がおかしいと考えるためでした。要素還元主義という19世紀末までの考え方が間違っているということです。

これはドラッカーが言い出したことではありません。フッサールが提唱した現象学の考えが基礎にあると思われます。フッサールは心理学を学んでいるときに、どうもおかしいと気がつきました。基礎になった要素還元主義の考えが違うということです。

木田元は『闇屋になりそこねた哲学者』の12章で、現象学を解説しています。[近代物理化学から借用した要素還元主義と因果的思考という方法論]を採ることは、[十九世紀後半に科学として自立した人間諸科学すべてに共通する欠陥]というべきものでした。

これらが問題視された結果、心理学でもゲシュタルト心理学が生まれます。ここで採用されるのは、[われわれの知覚は感覚の総和ではなく、まとまった形態(ゲシュタルト)だという考え方です]。木田の解説が、そのままドラッカーにも通じます。

ドラッカーが問題にしたのも[要素還元主義と因果的思考という方法論]でした。このときポイントとなるのは形態という概念です。[今日のあらゆる体系において中核となっているコンセプトは形態である](『テクノロジストの条件』 p.6)と記しています。

 

5 ドラッカーのいう「目的」概念

形態をコンセプトとした場合、どんな世界観が構想されるのでしょうか。[デカルト的世界観の主軸だった因果律は消え]、その代わり[今日ではあらゆる体系が目的律を核とする]ことになるとドラッカーは書いています。

▼ポストモダンにおける諸体系のコンセプトは、全体を構成する要素(かつての部分)は全体の目的に従って配置されるとする。ポストモダンにおける秩序とは、全体の目的に沿った配置のことである。 『テクノロジストの条件』 p.8

ここでいう[目的]がなかなかの曲者です。目的という概念はドイツでは刑法理論にも採用され、目的的行為論として、行為を規定するコンセプトとして使われています。ドラッカーのいう[目的]という用語が明確であるかどうか微妙なところです。

▼かつての目的は、物質的世界、社会的世界、心理的世界、哲学的世界の外部にある絶対的存在だった。これに対しポストモダンにおける目的は形態そのものに内在する。それは形而上のものではなく形而下のものである。宇宙の目的ではなく宇宙の中の目的である。 p.8

目的の概念が不明確なままでは、新しい世界観など構築できそうにありません。新しい世界観の内容というべき[その形態、目的、プロセスを目にしながら、これらの言葉の真意をいまだ十分には理解していない](p.9)とドラッカーはいうのです。

[デカルトの世界観を捨てた]われわれは、[今のところ、新しい体系、方法論、公理を手にしたわけではない。われわれのためのデカルトは、まだ現れていない]ということですから、「目的」はしばしカッコに入れておきましょう。しかしヒントがあります。

 

6 世界観の基本となる「変化」の概念

ドラッカーは、新しい世界観を構築するときの要件としてプロセスをあげました。[プロセスにおいては成長、変化、発展が正常であって、それらのないことが不完全、腐敗、死を意味する]と指摘しています。

▼ポストモダンの世界観は、プロセスの存在を必須の要件とする。あらゆるコンセプトが成長、発展、リズム、生成を内包する。デカルトの世界観では、すべてが等式の両辺にあって移行可能だったのに対し、ポストモダンの世界観ではすべてが不可逆である。 p.8

「変化」の概念が変わったことが大切です。[変化を人間の力ではいかんともしがたいものとしていた]ため、[変化は常に破局とされ、不変が理想とされた]、[家族、教会、軍、国家の役割は、いずれも変化の脅威から個を守ることだった]ということです。

▼今日、われわれは変化それ自体を良いとも悪いとも見ない。たんに常態とする。秩序を変えるものとは見ない。秩序そのものと見る。秩序とはダイナミックに動く変化そのものであると認識する。そして、もし変化が秩序であるとするならば、それは人が予期し、方向づけし、管理できるものであるとする。 p.13

おそらく新しい世界観の基本はここにあります。変化を[予期し、方向づけし、管理できるものであるとする]考えが採用されたことが重要でしょう。変化に人間が関与できるということです。そのためイノベーションが起こせるということになります。

 

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