■ビジネスモデルと運用ルール:ドラッカーと梅棹忠夫 その1

1 業務の基幹部分

業務マニュアルを作成することによって、業務を客観化することができます。自分たちの現状のビジネスの方法を見て、そこから考えていくことが大切です。いま業務マニュアルを作る組織が少なくなっていますが、これは危険なことだと言うべきでしょう。

業務の基幹部分をマニュアル化した場合、ビジネスモデルと運用ルールが明らかになります。ビジネスではどちらに進めばよいのか、それを判断するための仕組みが必要です。ビジネスがモデルとルールによって構成されるのは、当然のことと言えます。

「私たちは何をすべきなのか」を詰めたものが「ミッション」といわれるものでしょう。これが核になって、具体的にどう進んでいくべきかが決まってきます。ミッションという思いに対して、具体的なゴールや目標という基準が与えられることになります。

目標達成には、こうすれば、こうなるはずだというモデルを作ることが不可欠です。実際に収益をあげて発展している会社の場合、基幹業務をマニュアル化すれば、本来、自社の成功の方程式になっているはずです。しかし次々ご不満が出てくることでしょう。

自社の仕事のありかたを、シンプルなモデルとその運用ルールで見てみれば、全体的には上手くいっていたとしても、まだまだこれではまずいということが、浮き上がるはずです。モデル化してみれば、詰めの甘さやルールの欠落などが見つかることでしょう。

 

2 ビジネスのモデル化と運用ルール

ビジネスのモデル化と運用のルール化というのは、そんなに複雑なことをするものではありません。他の組織や他分野で成功したものから学ぶことが中心です。全く新しいことを発明するというよりも、すでに行われているものを体系化することになります。

成功している事例から、成功のエッセンスを見出すことが重要です。モデル化に関して、梅棹忠夫が語っていることが参考になります。ビジネスならば、比較する事例の中に鍵を見出し、その対応事象を探して、自社の環境と組織の中に再現・構築することです。

こうした比較検討からモデルを作ることになりますから、「類推すること=アナロジー」を使うことになるのは当然というべきでしょう。そこから比較すべき対象の条件も出てきます。そして、どのようにモデル化すべきかという発想も出てきます。

梅棹のモデル形成の原則は、おそらく以下の3つです。[1]もっとも多面的に、よく適合するアナロジーを備えたモデルを探すこと。[2]論理的に納得できる形にモデル化すること。[3]もっとも簡潔でうつくしい形のモデルで表現すること。

梅棹はモデルを作るときの条件に、論理的であることとともに、うつくしい形であることをあげています。こうした美しさの意識が必要だというのは、モデルを作った人ならわかるはずです。きれいでシンプルな形になった場合、たいてい上手くいくものです。

 

3 形態と知覚

モデル化において、論理性は必要不可欠なものですが、それだけでなくて、美しさといった基準が決定的な働きをすると梅棹は言います。この点について、ドラッカーもがすでに「未知なるものをいかに体系化するか」で言及していました。

▼重要なものは、道具ではなくコンセプトである。宇宙、構想、知識には秩序が存在するはずであるとする世界観である。しかもその秩序は形態であって、分析の前に知覚することが可能なはずであるとする信条である。その知覚がイノベーションの基盤になるとの考えである。そして最後に、その知覚は未知なるものの体系化によって一挙に獲得することができ、そこから新しい知識と道具を手に入れることができるとする確信である。 p.16 『テクノロジストの条件』

モデル化には、秩序が存在するという世界観が前提となります。その秩序を理解するためには「知覚」が必要です。「知覚」とは「感覚器官を通して、現存する外界の事物や事象、あるいはそれらの変化を把握すること」(ブリタニカ辞典)のようです。

「現存する外界の事物や事象」が形態にあたるものでしょう。形態がどういうものか、感覚器官を使って把握することが、ドラッカーのいう[知覚すること]にあたります。その一例が「もっとも簡潔でうつくしい形であるかどうか」の基準による判断だといえます。

 

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