■体系化とは:ドラッカーの説明

1 体系化とはどんな概念か?

体系化という用語がときどき本に出てきます。ある種の体系を作ってしまうと、それにとらわれて個々のものが正確に見えなくなる…とリスクを指摘する人もいます。体系という言葉はどんな概念であって、体系化するとは、どういうことをいうのでしょうか。

ドラッカーはしばしば体系という言葉を使っています。そこで示している概念は、どうやら「一定の原理で統一的に組織された知識の全体」とか「個々のものを秩序づけて統一した組織の全体のこと」といった辞書的な意味とは違っているようです。

▼私が30年前に書いた『現代の経営』によって、読者は経営管理の仕方を学んだ。それまでは、特に才能のある者だけが行うことができ、他の者には真似のできなかったことを学べるようになった。私がそれを一つの体系にまとめた。 p.13 『マネジメント・フロンティア』

ドラッカーによれば、体系とは学べる形式に整え、理解し実践できるように統合した全体を表す概念です。体系の概念を「統合し、秩序づけ、統一化したものの全体」という、あるべき姿からの説明ではなく、体系化したものがもつ機能からの説明になっています。

 

2 ドラッカーのいう体系化の条件

ドラッカーのいう体系が、どんな考えを基礎にしているのか、ドラッカー自身の説明を以下で見てみましょう。対話の中で「体系・体系化」について、質問に答えている場面があります。ドラッカーの説明を聞くと、体系化することの意義がわかってきます。

ドラッカーは『イノベーションと企業家精神』という本が、『現代の経営』と同じ役割を果たすと主張します。この本では、[イノベーションと企業家精神について、同じことをしようとしたものだ]というのです。しかし質問者はそれに疑問を投げかけます。

質問者が[内容はあなたが考え出したものではない]と言うのに対して、ドラッカーは[いや、かなりの部分が私の考え出したものだ]と答えます。[戦略の部分はあなたが考えたものではない。あなたが書く前から、あったことだ]と相手は納得していません。

▼問 私が言おうとしているのは、それらのことは、他の人がすでにやっていたものだということだ。市場のすき間を見つけたり、従業員に企業家精神を発揮させたりすることは、あなたの本が出る前から行われていたことだ。
【答】そうだ。そして皆が、それらのことは天才だけができることであって、真似できないことと考えていた。しかし、理解できないために真似ができないというのでは、考え出されたものとは言えない。それは単に行われていたというにすぎない。 p.13 『マネジメント・フロンティア』

一つの体系にまとめられたものがあれば、それを読む人は、その内容を理解できて、それを実践していけます。これが体系化の条件です。ドラッカーからすれば、偶然に行われていたり、天才的な人だけが行えるものでは、考え出されたものではないのです。

 

3 体系と「理解+実践」

ドラッカーの場合、ビジネスの話が中核になっています。ビジネスにおいて、そのときどきで行われた「結果」を見るだけでは不十分で、それを理解して行うこと、「理解+実践」を重視しているのです。「理解+実践」の結果が成果だということになります。

「理解+実践」があるならば、考えだすことができるでしょう。ビジネスはつねに変化しますから、各人が考えていかなくては行き詰ります。もし結果が悪くても、「理解+実践」がなされていれば、修正していけるはずです。そのため理解が重要になります。

ドラッカーには、結果だけを見る発想ではダメだという考えがあるのです。これは体系という言葉の理解において、基礎になっています。体系化されたものであるならば、理解できて実践できるはずです。体系になっているものは、役に立つと言ってよいでしょう。

▼私が経営管理の世界に入った頃、経営管理のかなりの部分は、エンジニアリングから派生してきていた。また、かなりの部分が会計から来ていた。心理学から来ている部分もあった。インダストリアル・リレーションズからはもっと多くのものが来ていた。しかしそれらのものは、おのおの別個のものと考えられていた。そしてばらばらであったために、ほとんど役に立っていなかった。 『マネジメント・フロンティア』pp..13-14

別々なものと考えられていた複数のものを、統合してまとめることによって、理解し実践できる形式にまとめられたならば、体系化したと言えます。理解を問わず、結果だけを問う発想では、体系化はできません。体系化するには考えだすことが不可欠なのです。

▼鋸だけや、金槌だけでは大工はできない。あるいは、もしペンチというものを知らなければ、やはり大工はできない。これらの道具を一揃えにしたとき、はじめて大工道具を考えだしたということができる。そのような意味で、あの本の中のかなりの部分が、私の考え出したことだ。 『マネジメント・フロンティア』p.14

 

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