■マニュアル総論 その5 OJT・教育用のマニュアルが業務マニュアルに与える影響

 

1 業務の詳細を決める前の実践

業務マニュアルについてのお話をするうち、かなりのケースがOJTのマニュアルの話になっていきます。業務は常に変化していきますから、スピードが大切です。OJTのマニュアルと業務マニュアルの一番の違いは、スピードであると言ってよいかもしれません。

多くの組織で、仕事の仕方が標準化されていないことの不具合を感じています。仕事の成果を確保できる仕組みを基礎にして、さらにその上を目指していきたいのです。ただ業務が実践できなくては困りますから、業務マニュアルをどうするか…が問題になります。

こういうとき業務マニュアルに、仕事の詳細を書いていくのは効率的ではありません。業務マニュアルには、大枠のみを記して、これとは別の実践方法を考えます。実践しながら改善あるいは大幅な改定を行う方法をとるべきです。実践なしに修正はできません。

仕事の仕組みが整っても、実践がなくては仮説にすぎません。仕組みを洗練させるためには、実践を通じた試行錯誤が必要です。研修を実施して、実際に業務を行っていくことが優先されます。実践していない仕組みを業務マニュアルに記述すべきではありません。

 

2 リーダー養成につながるOJTのマニュアル

業務マニュアルの場合、業務を行う人が理解できるように詳細な記述をすることが原則です。もれないように、慎重な仕事が求められます。一方、研修を指導する人は、仕事の全体がわかっている人です。マニュアルに詳細な記述は必要ありません。

OJTのマニュアルでは、「どう教えていくか」「どのように習得を確認するか」を考えることが中心であり、教える人がわかるように記述できたかどうかだけが問題です。作成者しかわからない暗号では困りますから、他の指導者でもわかる記述が必要になります。

教える人はすでにリーダーか、いずれリーダーになる人でしょう。教えることによって、本物のリーダーになるのです。自分の想いを正確に教えられなくては、リーダーになることはむずかしいでしょう。これはマネジメントの基本的な考え方ともいえます。

▼花形セールスマンの生産性をさらに向上させる最善の道は、セールスマン大会で成功の秘訣を語らせることである。(中略)看護婦の成果を向上させる最善の道は、新人の看護婦に教えさせることである   ドラッカー『プロフェッショナルの条件』

 

3 リーダー養成の訓練と業務の実践

OJT・教育用マニュアルを作成することは、じつのところリーダー養成の訓練でもあります。これに気づいた組織は途端に様子が変わってきます。OJTや教育研修のマニュアルを作成してみると驚くことでしょう。実際の効果が目の前で、はっきり分かるからです。

OJT・教育用マニュアルの作成は、業務マニュアルに大きな変化をもたらしました。仕事の詳細な手順を周知させることは業務マニュアルの中心的な機能ではありません。これはOJTや教育研修などを利用して、迅速に仕事が回る体制を作ることが優先されます。

実践を通じた改定を行った仕組みやルールでないmこのは、まだ業務マニュアルに記述しなくても良いでしょう。まずOJT・教育用のマニュアルで足ります。この過程で実践的で効果的な仕組みがどんなものであるか、理解を深めていけるはずです。

素晴らしい仕組みがあっても、簡単に導入できないというお話を聞くことがあります。業務を構築し、それを実践し、洗練させていった最終形だけを見ても、実践はむずかしいでしょう。業務マニュアルの記述だけで、仕事ができると思ってはいけないのです。

⇒ この項続きます。

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