■PISAで読解力レベル低下の調査結果:予測された結果と対策

 

1 予測された読解力レベルの低下

企業の社員教育を担当する方々から、若い人たちの理解レベルの低下についての相談が続いたのは、もう5年以上前のことです。あるとき突然ではなくて、何度も引き続いて様々な人たちから、どうもまずいことになっているというお話を聞くようになりました。

そのため5年前から学校で学生に教えています。約20年前に教えた資格試験を受ける学生と比較してどうか、を知りたい気持ちもありました。読解レベルの低下はどのくらいなのか、ビジネス人向けの研修や講義の結果とも比較してみたいと思ったのです。

PISAの調査で読解力レベルの低下が示されました。レベルの低下は、10年程前に小学生に作文を教えたときから確実だと思いました。本を読まない傾向や、デジタル化の影響もあるかもしれません。危機感を持って対応を考える機会になればよいと思います。

私の経験から言えば、小学生の場合、練習すれば読み書きの力は猛烈につきます。ビジネス人の場合、実力がつくのに時間がかかり、忙しいからと継続しない人が大半です。文章が苦手で18歳を過ぎた学生の場合、数か月の練習で大きく水準が変わってきます。

 

2 ポイントとなる「構文と機能語」の理解

東洋経済Webに<「PISA読解力低下」は子どもたちからのSOS>という記事が出ています。新井紀子著『AIに負けない子どもを育てる』から抜粋した記事のようです。練習を受けた学生たちが変わるのを見ていると、まさに題名の通りだという気がしてきます。

練習を始めた学生たちが、成長していますと言って、次はいつなのかと聞いてくるのは、ありがたいことだと思います。ビジネス人には、文章のために時間などとれるかという気持ちがあるのか、効果は同じはずですが、継続は少数で全体として成果は出ません。

記事で新井紀子は[基本的に文芸を除くほぼすべての文章]の読解について、[文の作り(構文)を正しく把握したり、「と」「に」「のとき」「ならば」「だけ」「以外の」など、機能語と呼ばれている語を正しく使えるようになること]が不可欠だと言います。

文章の読み書きに、語彙とともに、構文と言葉の機能(役割)の理解が一番基礎になるのは当然のことですが、日本語ではこの分野でのルールの標準化がなされていません。新井の言う通り、[本を読ませれば][自然に身に付く]ものではないのです。

 

3 言葉のルール作りの基本

新井の『AIに負けない子どもを育てる』については、以前にも書いた通り、読解力をつける効果的な方法が示されているとは思えなくて、期待外れと言うしかありません。もう一度日本語に寄り添って、日本語のルールの基本から考え直してみるべきだと思います。

しかし河野六郎のような一流学者でも、[日本語の特徴の一つとされるハとガの違いは][主題と主語の違い]と考えています。「主題」の概念を強引に「ハ」に適用させたものが通説的見解です。これでは構文が作れませんし、機能語の理解も困難でしょう。

学説の争いとは別に、読解力や作文力をつけるために、どういうふうにルールを理解したら効果があるのかを考えてみるべきだと思います。このとき外国人向けの教育方法は参考になりますが、別物と見るべきでしょう。これも留学生に教えてみてわかりました。

言葉のルールを説明しようとすると、かなりの分量になります。簡潔に概要を書いたものを理解するには、一定レベルが必要です。文章の苦手な人に効果的だったのは講義形式でした。いま練習方法を標準化することを通じて、日本語のルールをまとめています。

⇒参照ブログ: ■「アミラーゼ問題」の文がわかりにくい理由

 

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