■日本語のバイエル:ロシアからのメール 続き

 

4 シンプルな概念の受け入れられる用語

文章のルールを説明するとき、何を・どう書けば良いのかがわかればいいのに、用語が面倒だと言う人がいます。講義でも厳密な文法用語の説明など聞いてもらえません。ルールがわかって、実際に使えるようになればいいのです。用語にこだわる必要はありません。

どういう用語なら受け入れられるのかということが問題です。何度か用語が変遷しました。主語よりも主体がよいと思っていましたが、「主体」よりも「主役」の方が受け入れてもらえるようでした。「述語」でなく「述部」と言っていたこともあります。

主語・述語という用語を知っている人はたくさんいても、正確な定義を知る人はわずかです。私も知りません。なるべく一般用語を選んで、違和感なく使えれば十分だろうと思いました。文末に置かれた語句だから「述語」より「文末」が自然だろうとの判断です。

大切なのは語句の概念がシンプルであることでしょう。使う用語も数を限ったほうがよさそうです。文中の役割を表す用語としては「主役・脇役・条件・文末」を使い、これらの役割と結びつく要素として「誰・何・どこ・いつ」と「なぜ・どのように」を使います。

 

5 基本文型の成立

主役とは、文末の内容が「誰・何・どこ・いつ」であるかを示す語句であり、「主役+文末」が文の意味の中核になります。「今日、私は図書館で本を借りました」ならば「借りました」の当事者「私は」が主役です。「私は借りました」が文意の中核になります。

ただ、「私は借りました」だけでは情報不足だと感じるはずです。追加情報が必要でしょう。おそらく「何を借りたのか?」という情報が不足していると感じるはずです。「私は」という主役だけでは情報不足なので、「本を」という脇役が必要となります。

「主役+脇役+文末」=「私は本を借りました」というのが最小限の情報で成立した文です。このように成立する形式が基本文型になります。脇役が不要な文ならば、「主役+文末」の形式が基本文型です。あるいは「主役+脇役+脇役+文末」の形式もあります。

では、主役になる語句をどう判別すればよいでしょうか。主役の場合、語句に助詞「は・が」が接続したら主役の目印になります。脇役となる語句の場合なら「が・を・に」の接続が目印です。条件となる語句ならば、助詞「に・で」の接続が目印になります。

 

6 例文「私は東京に行きたい」の構造

「主役は」と「主役が」ではニュアンスが違います。「私は参加します」と「私が参加します」の違いを感じることができるはずです。また「脇役が」「脇役を」「脇役に」でもニュアンスが違ってきます。あるいは「条件に」「条件で」でも違いが生じます。

ロシアの日本語の先生は「私は東京に行きたい」という例文の構造についても質問をくださいました。主役になる語句は「私は」です。「東京に」という語句は脇役になります。脇役に「に」が接続した場合、文末に「行為・行動」を意味する語句がきます。

これに対して「私は東京が好きです」のように、好みや可能、願望の文の脇役には「が」が接続になります。しかし「私は東京に行きたい」という文は願望が示されているのに「東京に」となっているではないか…。このあたりは説明不足のままでした。

「行きたい」は行動に関わることと同時に願望でもあります。「東京が」ではなく「東京に」という言い方になるのは、願望の要素よりも行動の要素のほうが強いからです。「行く」を様々に変形させても、行動することが用語の中核的な要素になっています。

日本語がそう決めているのです。「話がしたい」でも「話をしたい」でも許容される言い方でしょう。「話が」ならば願望の要素が強いため「話」に内容の重点が置かれます。「話を」ならば行動の要素が強くなるため「したい」に内容の重点が置かれるのです。

 

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