■シュンペーター理論の意義:「良い経済学」の条件

 

1 「良い経済学」の三原則

経済学の本には多数の数式が並び、なかなか読む気になりません。しかし経済学者はシュンペーター理論が[ケインズ経済学と違って、単純なモデル化を許さず、それゆえ、多くの人々に理解されるものではない](根井雅弘『シュンペーター』)と考えるようです。

経済学に対する一般人と経済学者の意識には、大きな格差があります。経済学者のタイラー・コーエンは『インセンティブ』で、[経済学は、使い方さえ間違えなければ、非人間的で、冗長で、きわめて難解といった落とし穴を回避できる]と言います。

コーエンは経済学にも「良い経済学」と「悪い経済学」があると言って、「良い経済学」の三原則を示します。なかなかユニークです。[一 ハガキ大にまとめられるか][二 おばあちゃんに理解してもらえるか][三 「あっ、そうか」を感じる原則であるか]。

(1) 優れた議論なら結論への道筋が明確なので、ハガキ大にまとめられるということ。
(2) 基本概念がしっかりしていれば、専門家でない人でも内容が理解できるということ。
(3) 的確な議論なら「あっ、そうか」と感じるところがあるはずだということ。

こういう原則を示してもらうと、これを基準にして経済学の本を読んでみようという気にもなるでしょう。ところが実際にそのつもりで読んでみると、大変なことになります。コーエンの示した三原則に合致するような理論は、そう簡単に見つからないのです。

 

2 ドラッカー「シュンペーターとケインズ」

シュンペーターの理論は、コーエンのいう「良い経済学」に該当するでしょうか。シュンペーターの理論をハガキ大にまとめるのは大変ですので、ドラッカーの「シュンペーターとケインズ」(1983年 『すでに起こった未来』)にガイド役をお願いすることにします。

ドラッカーによれば、古典派経済学でもケインズ経済学でも枠組みは[均衡経済学]でした。ケインズなら[経済を動かすものは、生産すなわち供給か、消費すなわち需要かという問題]であって、[健全かつ正常な経済は均衡状態にある経済]だという前提です。

シュンペーターはこの前提を否定したのです。[経済は常に動的な不均衡状態にあると考え]ました。[経済学の中心問題は均衡ではなく、構造変化であるという主張から出発]したのです。[そこから、革新者を経済学の真の主役とする]理論が生まれました。

シュンペーターの中心的な理論は、[イノベーション、すなわち資源を陳腐化した古いものから新しい生産性の高いものへと移す企業家精神こそ経済の本質]であり、こうした[創造的破壊]を実践する[革新者だけが真の利益を生み出す]とする考えでした。

簡潔な説明ですが、こうしたドラッカーの文章のままでは、「おばあちゃん」が理解するのは無理かもしれません。ドラッカー自身、自分の本は高校生には無理、大学生でも理解するのはむずかしいと語っています。以上を、理解しやすい言葉にしてみましょう。

 

3 マネジメントの生まれる基礎

シュンペーターは、今までと違う新しいモノや仕組みを生み出すことによって、経済が発展すると考えました。需要と供給をコントロールしても経済発展は起こらないのです。今までにないものを生み出して、それが受け入れられたなら、創造した人は祝福されます。

人々は、新しい快適なものを使うことによって、より快適になります。提供者は、人々に受け入れてもらうことによって、富を手にします。それがありふれたものになるまで利益が得られます。このように、利用する人々と提供者が共存共栄の関係になるのです。

経済を発展させるためには、新しいことをする人が活躍する社会にしていかなくてはなりません。新しいことを現実のものにするには、新しいことをする人に、資金を提供しようという人も必要になります。こういう条件がそろった社会ならば、経済が発展します。

この理論を前提にすると、「企業活動はどうあるべきか」が見えてきます。現在の仕事の状況を把握して、「今後どうすべきか」と繰り返し考えていくことになるのです。その際、現在よりも創造的な活動ができる仕組みにしていくべきだということになります。

私たちは「今後どうしたい」ということを考えます。それを実現するためには、従来とは違う新しいモノ・サービス、仕組みを生み出すことが求められるのです。そのためにはどうしたらよいのでしょうか。ここにマネジメントの生まれる基礎があります。

ドラッカーは「シュンペーターとケインズ」で、[シュンペーターは偉大な経済学者、今日のための適切なガイドとなっている]と書いています。ドラッカー・マネジメントを構築するときの重要な基礎が、シュンペーター理論にあったと言えるでしょう。

*シュンペーターに関する主なブログ
「シュンペーター理論のユーザー:経済学より広い適応領域」
「いわゆる「企業家精神」について:シュンペーターの考え」

 

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