■人材を駆使するメカニズムについて:塩野七生が学んだこと

 

1 長期的に成功した国の要件

塩野七生が文藝春秋2017年9月号で、[勉強して考えてその結果を書くという歴史エッセイは終わりにしようと決めた]と書いています。そして[この頃は五十年間西洋史を書いてきて、何を学んだのかと考えるようになっている]とのこと。

学んだものは[平凡で単純な真実]です。その一つ、[長期にわたって高い生活水準を保つことに成功した国と、反対に、一時期は繁栄してもすぐに衰退に向かってしまう国があるが、この違いはどこに原因があるのかという問題]について書いています。

長期的成功は[古代ローマ帝国と中世・ルネッサンス時代のヴェネチア共和国]、一時的繁栄は[古代ではギリシア、中世・ルネサンス時代ではフィレッツェ]。両者の違いは、[危機をどう克服したか]によって起こったというのが結論です。

長期的成功の要因は[持てる力や人材を活用]したことにあります。[うまく行っていた時期に蓄積した力やその時期に育った人材を、停滞期の今だからこそ徹底的に活用し]たのです。一方、一時的繁栄に終わった国は[リストラという方法に訴え]たのでした。

リストラ策とは[歴史的に言えば,国外追放]でした。その結果、[ギリシャ時代のアテネやルネサンス時代のフィレンツェでは、テミストクレスやレオナルド・ダ・ヴィンチのような頭脳流出の先例を作ってしまう]のです。これでは成功しそうにありません。

 

2 鍵となる「人材を駆使するメカニズム」

ここで一番のポイントは[人材を駆使するメカニズムが機能しなくなってくる]ことにあります。[人材が枯渇したから、国が衰退するのではない。人材は常におり、どこにもいる]のです。人材を生かす仕組みを機能させることが危機克服の中心的課題になります。

リストラなしで回復を目指すのが「政治」であり、リストラしてでも早く回復しようとするのが「経済」だと塩野は言うのです。発想が違います。[長期的に見れば前者が成功したのは、歴史が示すとおり]。いかに人材を生かす仕組みが大切かということです。

[自分たちがもともと持っていた力と、自分たちの中にいる人間を活用するやり方のほうが、最終的にはプラスになってくる]。人材を生かす仕組みを構築しているなら、人材を呼び込むこともできます。能力を発揮する仕組みが成功の鍵だということです。

こうした仕組みの構築がビジネスでも最大の問題になります。現在の組織の仕組みがどうなっているのか、それを検証して仕組みを再構築するのがマネジメントの役割であると言えそうです。新たな仕組みを構築するためには、現状を確認する必要があります。

 

3 仕組みの構築に必要な3つの条件

新たな仕組みをどうするのか、現在の仕組みがどうなっているのか、それを把握するためには、どういう作業が必要でしょうか。基礎になるのは仕組みを記述することです。現在の仕組みがどうなっているのか、把握するためには言語化することが必須になります。

次が、現状の把握から新しい仕組みへと発展させる段階です。人材を生かす仕組みが必要となります。そのときの条件は、①成果を上げやすい環境が整っていること、②成果を正当に評価する仕組みが整っていること。さらにもう一つありそうです。

会社の役員さんや部長さんとお会いしてみると、たいてい自分は正当な評価をしているという前提でのお話になります。そのとき、仕組みがどうなっているのかを聞くことにしています。成功した場合に、どうするのかが事前に決まっていますかと聞いてみるのです。

たいてい成功したらその時考えるようになっています。失敗への対策はあっても、成功への準備が欠落しがちです。[人材を駆使するメカニズムが機能]したら当然、成功します。成功への準備がないということは、成功したら困る仕組みだということです。

問題解決やリスク対策の発想だけでは、不十分だということになります。やる気にさせて、成果を上げて、さらにその上を目指すために仕組みを作るべきです。事前に成功した場合を考えておくのは、成功する仕組みを構築するときの基礎作業だといえます。

しかし、成功するほどに忙しくなり、担当者が「何とかして!」と悲鳴を上げる事態が起こることがあります。成功したら、もっと成功できるようにするステップの準備が必要です。成功したら担当者が消耗するようでは、さらなる成功など期待できません。

成功を想定しておかなくては、人材を駆使するメカニズムは機能しません。もう一つの条件が加わります。「③成功を基礎に、さらなる成功を促す仕組みを組み込んでおくこと」です。この3つが「人材を駆使するメカニズム」を作る前提条件というべきでしょう。

 

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