■標準化の方法 1/2:操作マニュアル作成に関連して

1 利用法のシュミレーション

数年前、商社系の業務システムの操作マニュアル作成にかかわったことがあります。操作マニュアルの本文の内容を書いたのはシステム関係者でしたが、全体の作成方針に関していくつかの工夫をしてみました。幸い利用者からも評価していただけたようです。

専門性のある業務を対象としたシステムでしたが、広範囲の業務をカバーするものでしたので、ユーザーの利用を想定することが前提になります。幸い導入したい会社のご協力が得られたため、経営者、管理職、現場の担当者の3者からお話が聞けました。

聞き取りの結果、実際の業務の問題点とシステムへの関心のありかがどこなのか、わかってきました。これで利用法のシュミレーションが作れます。最終的に3つの場面の利用モデルにまとめることによって、マニュアルの構成が決まりました。

 

2 開発する側と利用する側の視点の違い

操作マニュアルを作るときにも、業務がどう進むのか、業務とシステムがどう関わるのかについてのシュミレーションをすることが作成の基礎になります。開発を担った人がマニュアルを作る場合、そんなことは最初から分かっていると感じることもあるはずです。

そうであるならば楽でしょう。どういうシュミレーションをして、どういう利用のルールを考えたのか、それに基づいて、どういう操作の標準モデルを考えたのかがわかれば、話は早いのです。当事者がマニュアルを作るなら、それを聞くまでもありません。

利用者がこう利用したいと思っていることを、開発者がわかっているならば、その製品は素晴らしいものになるだろうと思います。実際にはそうなっていません。求められる機能が盛り込まれていて、どう使うかと聞かれれば説明できるというのがせいぜいです。

これは開発する側の責任とは言い切れない事情があります。開発したシステムに画一的な操作法しかなければ困ります。業務の変化に伴って、利用法が変わるのが前提です。余裕をもって多めの機能、多様な使用法があったほうが業務システムも長持ちします。

 

3 共通基盤となる標準モデル

標準化というのは、業務の基本や利用のモデルを決めて、それを基準にしようということです。最低ラインを決めて、そこから改善を重ねてレベルアップしていくことになります。最初から完璧はありませんし、標準が固定されるものでもありません。

細かいことに気を使いすぎないで、ばっさり枝葉をカットすることによって、基礎とする共通基盤ができます。たとえばキーボード配列の「QWERTY」がベストなキー配列だとは思う人が少ないはずですが、配列を決めることの意義は理解できるだろうと思います。

実際の利用がなされれば、標準はある程度変わるはずです。一定期間であれ標準になるモデルを作るのは簡単ではありません。残念ながら、「日本のメーカーは、標準化やマニュアル化が極端に苦手である」と冨山和彦が言う通りなのです。

操作マニュアルの基本方針を考えるときに、作成・開発側の視点で記述しようとしたら、厚いマニュアルになります。利用側の視点で操作のモデルを作って、それに基づいて作成していくならば、簡潔で分かりやすいマニュアルの基礎部分ができます。

基礎部分だけでは不十分な場合、ケースごとの対処法を付加していけば対応できます。大切なのは基礎部分が理解できたら、使ってよかったというレベルに達することです。標準というのは、「ここまではできるようになって」という基準でもあります。

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