■出色の指導者論:エディー・ジョーンズ『ハードワーク』(その2)
1 自分で考える
エディー・ジョーンズの『ハードワーク』を教科書として使うためには、内容を整理する必要があります。読みやすくて必要事項の整備された本ですから、使える形式にする練習になるはずです。2012年にラグビーの日本代表ヘッドコーチに就任した人が、どういう発想で指導したのでしょうか。 ⇒[その1]はこちら。
この本自体、教科書になることを意識している気がします。本文中でも大切なポイントが太字になっています。同時に、安直なステップ形式にならないようにしたいという意思も感じられます。自分で考えることが大切なのだという思想がありそうです。
よく言われるように、日本の選手はデシジョン・メイクが苦手です。
これは指導する側が、何が正しくて、何が正しくないかを、すぐ教えてしまうからだと思います。それでは自分で考えたり、判断したりする力が身につかないのではないでしょうか。[p.129]
答えがあれば[教えられる側は、自分で考えなくて済みます](p.129)。教科書にするなら、自分で考えながらまとめていくべきなのでしょう。読むだけの人とは[理解の度合いが、大きく異なる](p.130)ことになるはずです。以下は私の備忘録にすぎません。
2 明確な目標設定が絶対必要
この本で、エディー・ジョーンズは1章を「目標」から始めています。[人生において、大きな成功を望むとき][絶対にしなければならないこと]、[それは明確な目標を設定すること](p.16)です。目標は[数字などで具体的に表現され、結果が出たとき達成できたかどうか、はっきりわかるものでなければなりません]。
具体的には[「日本は世界のトップ10に入る。ワールドカップでも勝利する」という目標を掲げ](p.17)ました。[目標は、「そんなことが出来る訳がない」と思えるほど、大きなものを掲げるべき](p.18)です。以上を見ると、目標を立てることがスタートになるようにも読めます。しかし本来なら、目的が先に来るはずです。
目標を達成しようとするとき[モチベーションを高める方法があります。それは自分たちの参加しているプロジェクトが、何か特別な意味のあるもの、重要な意義のあるものだと、感じさせることです](p.171)。これが目的になります。ミッションという言い方でもよいかもしれません。この本ではこの点が弱い感じがします。
目的は[このチームは世界で勝てる強いチームになり、日本のラグビー文化を変えるのだ](p.17)、[ラグビーは国際的なスポーツだ。世界で通用しなければ、意味はない](p.93)ということです。本当はもっと言いたかったのかもしれません。この人は残念ながら、日本である種の挫折をしています。
[最初は、日本のラグビー界全体を変えなければならないと思ったのです][でも、何も変わりませんでした](p.175)[やがて達観するようになりました][コントロールできないことを考えるのをやめたのです][私の結論は、いたって簡単でした。勝てばいいということです](p.176)。これならどこででも通用します。しかし儲ければいいのだ…と似ていて、目的を弱くする要因になっているかもしれません。
3 2か月を単位とした目標管理
目的をもち、目標を明確に設定したなら、計画および実行と検証が必要です。[目標を掲げたら、次に決めなければならないのは、スケジュールです。目標が全体像だとしたら、スケジュールは細部です](p.19)。エディー・ジョーンズは準備を重視するだけに見事な方法をとります。
まず目標には[大きな目標と小さな目標]があり、[小さな目標は、大きな目標に従属](p.22)すること、つまりマイルストーンとゴールの関係があることを前提とします。マイルストーンとなる小さな目標を2か月ごとに考えることがポイントです。[2か月という期間は、物事をチェックするのに、とても適している](p.24)。
目標がメインで、スケジュールがサブの存在ですから、[目標さえしっかりしていれば、スケジュールは自ずと決まってきます](p.19)。[日々変わる状況に応じて、どうすることがベストかということだけを考えるべきです]。したがって[スケジュール表をどんどん書き換えます](p.21)。
指導者は2か月の[目標を自分専用のメモなどに書きとめ、繰り返し読む]、さらに[結果を、分析したり、評価](p.23)することが必要です。それに基づいて部下や選手にメッセージを発信します。大事なのは[いま本当に伝えたいことを1つに絞る。それも冗長ではなく、出来る限りシンプルにする](p.25)ということです。
メッセージの内容も[最初に象徴的なものを示し、次により具体的なものを示す]。その都度、今やらなくてはならない[課題を一つ一つ明確にすることが大切です](p.30)。どうせ勝てないという気持ちも、具体的な課題があれば克服できます。[勇気とは、慣れ親しんだ自分を捨てること](p.160)だと記しています。優れた指導者だと思います。