■出色の指導者論:エディー・ジョーンズ『ハードワーク』(その1)

1 非常に頭のいいエディー・ジョーンズ

ラグビーの日本代表ヘッドコーチだったエディー・ジョーンズの『ハードワーク』は、ラグビーやスポーツをよく知らない人にも強く訴える出色の指導者論です。[数学と地理の教師]だったせいか、[スポーツをする前に、基本的な学問はしなければなりません](p.95)と記しています。ご本人も[ビジネス書をたくさん読む]そうです。

ビジネス書から[書かれた内容より、むしろ言い方を学びたい][同じことを同じ言い方で伝えていたら、やがて彼らは飽き、聞く耳を持たなくなる](p.67)と書いています。しかし学んだことはそれだけではなさそうです。実力のある人が、ビジネス書から一番おいしいところ、切れ味のよいところを掴み取っている感じのする本です。

ジャック・ウェルチの著作に感銘を受けたジョーンズは言います。

彼は「部下にある期間、同じことを言い続けていれば、それを信じるようになる」と言います。彼はそのやり方で、事業で大きな成功をおさめ、巨大な組織を作り上げたのです。
同じことを言い続けることは、単純に思えるかもしれません。しかし、それはぶれないことであり、信念を感じさせます。 [p.67]

ジョーンズは、さらにこんなコメントをつけます。[これはある意味、悪魔的な方法でもあります。たとえば、アメリカの大統領候補ドナルド・トランプ氏は、様々な政策を述べますが、結局「アメリカを再び偉大にしよう」といっているにすぎません。そしてアメリカ国民は、少しずつそれを信じるようになってきているように見えます](p.68)。

解説で持田昌典が[エディーさんは、非常に頭のいい方である]と書くのも当然かもしれません。

 

2 100パーセントの努力が必要

ジョーンズの日本人選手に対する指摘は多くの日本人に当てはまるでしょう。[「自分たちは弱い」という思い込みは、非常に強固](p.3)だというのです。こうした[マイナス思考が成功を阻んでいる](p.5)。したがって同じことを言い続ける必要があります。

集中して100パーセントの努力をすれば、成功できるということです。[努力は、100パーセントのものでないと、意味がありません。100パーセントで行うからこそ、何かを吸収できるのです](p.90)。そうした緊張感がない時には、トレーニングを取りやめることになります。準備ができていなくては意味がないからでした。

集中するためには、[トレーニングは、時間を区切ることが大切です。区切りがないと緊張感を失い、トレーニングのためのトレーニングになってしまいます](p.51)。[時間を区切るという簡単なことにより、理に適った、能率的なものになる](p.52)のです。

「理に適った、能率的なもの]でないことが、そこらじゅうで見られます。日本の組織の生産性の低さはもはや評価が定まっています。[私はいろんな国の選手を指導してきましたが、努力が一番不足していると感じたのは、日本人です](p.88)と言うのも当然かもしれません。

 

3 有効な準備が勝負を決める

エディー・ジョーンズを知的な指導者にした大きなきっかけは、師匠のボブ・ドワイヤーとの出会いだったようです。[彼は、オーストラリア代表のヘッドコーチで、私は彼を大いに尊敬しています]。[試合の運び方に関して、とても明確なビジョンを常に持っていました]。[なぜ、このようなことが出来るのかといえば、試合までにあらゆることを想定し、すべてを考えつくしているからです。つまり、十分に準備しているということです](p.149)。

ジョーンズは準備を重視します。[私は、準備を怠る人は、まったく話にならないと思います。そういう人は、私には戦う意思がないように見えるからです](p.73)。[どんな事でも、成功は、準備がすべてだと思います。勝つためには、準備をしなければなりません](p.72)。

やみくもに準備して努力をするのでは効果がありません。[物事を客観視すれば、必ず見えてくるものがあります](p.101)。[有効な準備をするためには、根拠が必要です。その点、データは非常に明確な根拠を与えてくれます](p.99)。この点でも日本人への苦言になっています。

日本人は冷静だと思っていたら、どうやら違うようです。[選手たちがひどく興奮しやすく、感情的なこと](p.104)に驚いています。選手だけではないでしょう。[ビジネスなど、たいていの勝負は長丁場です。そこで勝つためには、感情的で、興奮しやすい闘志は不要です。本当に必要なのは、冷静で、知的な闘志です](p.106)。

エグゼクティブといわれる全体最適を考えなくてはいけない人、教えなくてはいけない立場の人にとって、この本は教科書になりうる本です。もう少し内容を見ていきたいと思います。 ⇒[その2]

 

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