■「知識」の強化:山崎正和『二十一世紀の遠景』を参考に

 

1 若い国アメリカ

今年もそろそろ終わりです。記述の仕方を再検討しようかと、いくつかの本にあたってみました。2002年刊行の山崎正和『二十一世紀の遠景』が印象的でした。口述筆記の場合、<対話の生きた感触が残る>ようです。印象的な一筆書きがいくつもあります。

中国は森林を使い果たした「古い国」だが、アメリカの場合、風土そのものが若く<「未開拓の国」といってもいい>。ソローの『森の生活』が<今も、多くのアメリカ人にとって、一つの心の故郷になっている>。アメリカ人の奥底に自然人がいるとの指摘です。

自然があるのはローカル(地方)ですので、<地方分権主義は、アメリカ人の伝統的に好むところで、彼らが政治において一種の反ワシントン主義、反中央の傾向を繰り返し見せる>。アメリカの自然の豊かさが<ダイナミックな政治的展開を可能>にしたのです。

 

2 世俗的なプラグマティズム

アメリカには<自国内に広大な空間と資源>があるため、ある所で困っても西部に行けば成功の機会があります。<「動きさえすれば成功する」というのがアメリカン・ドリーム>です。そして動きやすくする装置が<自動車であり、あのハイウエイの網目です>。

努力が報われるのです。<具体的な行動の奨め、試みる精神の賛美が広く行われて、それがアメリカ社会の思想形成の上で重要な傾向を作り出します>。<世俗的な意味でのプラグマティズムが、アメリカに生きる人々の心に深く広く浸透>することになりました。

「世俗的なプラグマティズム」とは、なぜ問題があるのかを考える前に、<その問題を解決するのに、ちょうど必要なだけの原理を考えるという思想>です。アメリカ人の習性には<「当面の問題解決」に全力を注ぐという生き方>があります。明確な解説です。

 

3 体系性・体系化を意識した思考を

山崎のこの本には「人権の世紀」「情報化の世紀」「『仕事と労働』のかたち」等、これ以外の魅力的な解説があります。なぜこうした明確な思考ができるのかと思います。山崎が記述を重視していたことは前にも触れました。この本にもヒントがありそうです。

<情報量の革命的な増大>につれ、<発信者の「署名性」>が失われている点が問題です。署名なしの情報の氾濫は、<情報相互の文脈、体系のつながりを脅か>します。旧来からあった<「知識から断片的情報へ」という大きな歴史の流れ>が加速したのです。

これが<知識の力を弱め、教養の危機を>起こしました。知識の強化が必要です。<知識の特色は、部分部分は絶えず新しくなり、その意味では流動的ですが、それら各部分を貫く同一性は常に保たれている>ことです。枝葉は変わっても木の同一性は保たれます。

そのために<内容が論理的な文脈につながれていて、しかも体系的に整理され>た記述が必要です。当然、同一性を<つくった人、表現した人の署名>が不可欠になります。属人化の根拠もこれです。体系性・体系化を意識した思考が重要だということでしょう。

 

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