■操作マニュアル・取扱説明書の作成:自社で作成するかどうかの価値判断

 

1 問題の多いマニュアルの文章と説明方法

機能がたくさんある製品の説明をするのは簡単ではありません。マニュアルの説明の仕方と、文章それ自体に問題があることを、多くの人が指摘しています。『文学のレッスン』で丸谷才一が聞き手の湯川豊を相手に、同じように文章の問題を指摘しています。

<携帯電話の使い方はマニュアルを読んでもわからない。他の電気関係製品もほぼ同じようにわからない。ひどいもんです。僕は、マニュアルの文章をちゃんとしたものにすれば、もっと日本製品が売れるんじゃないかと、ひそかに思っていた>とのことです。

しかし携帯電話の場合、詳しい人に聞けばたいてい何とかなりますし、ウェブ情報もあります。小さい頃から携帯電話のある生活をしていると、使い方はそう問題にならないでしょう。電気製品も大きな問題はなさそうです。売り上げ拡大は難しいかもしれません。

 

2 マニュアル作成をするときの判断

会社からマニュアルを作るようにいわれた人が担当するのは多くの場合、企業向けの製品用マニュアルか自社の業務システムのマニュアルです。一般消費者向けの製品やサービス用のマニュアルを作るように言われることは、めずらしいお話といってよいでしょう。

説明書が不可欠な消費者向けの製品が少なくなってきたということかもしれません。多くの人が使うモノならウェブ上に情報があるはずです。複数のHPが説明してくれていますから、その中からわかりやすいものを読めば、解決になります。すぐれた方法です。

マニュアルが良質であれば、製品の評価がどれだけ高くなるのか、ここが問題なのでしょう。携帯電話や電気製品の売り上げにマニュアルの影響は軽微なはずです。労力をかける価値があるかどうか、適切な判断が必要です。このとき忘れてならない点があります。

 

3 マニュアル作成能力の養成

自社向けの業務システムや高度な製品のマニュアルに関して、良質なマニュアルが求められるのはいうまでもありません。マニュアルが信頼の裏づけになります。そのとき大切なことは、丸谷の言うとおり<マニュアルの文章をちゃんとしたものに>することです。

一般向けの家電の説明書で鍛えられた人はおそらく、高度な製品マニュアルでもきちんとした文章が書けます。説明の工夫が必要であることも理解していることでしょう。練習なしに、いきなり戦略的な製品のマニュアルを書くようにいわれても困るはずです。

どうしたらマニュアルの文章がよくなり、説明の仕方がよくなるのでしょうか。その答えは、「何度かマニュアルを作る経験をすること」です。小さなマニュアルを作る経験を何度かすれば、大きなマニュアルでも、わずかな指導があれば作れるようになります。

こうした点から、製品のマニュアルを安易にアウトソーシングするのは好ましくありません。自社でマニュアルを作る機会を失うことになります。労力をかけて作る価値があるかどうかの判断の際に、作成能力の養成という面も考慮に入れることが必要でしょう。

 

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