■アンドリュー・S・グローブ『インテル戦略転換』から学ぶ

 

1 恐れを大切にすること:戦略転換点

アンドリュー・S・グローブはインテル創業者の一人であり、マネジメントのプロとしてスタンフォード大学でも教えていました。この人が重視するのは、恐れという感情です。『インテル戦略転換』の原題は「パラノイア(病的心配性)だけが生き残る」でした。

<「品質管理の神様」といわれるW・エドワーズ・デミングは、企業内に存在する恐れを撲滅することを唱えた。しかし私は、この教義のもつ単純さに違和感を覚える>と一刀両断です。企業の「戦略転換点」がやってきたら、品質管理どころでなくなります。

戦略転換点とは、企業存立の基礎的要因が変化し、<さまざまな力のバランスが変化し、これまでの構造、これまでの経営手法、これまでの競争の方法が、新たなものへと移行してゆく点>です。ここを通るのは<死の谷に危険を冒して立ち入る>ようなものです。

 

2 明確さと「現実的」が鍵

明確性がそのときの鍵です。<多くの企業の場合は、間違ったから倒れるのではない。企業の死は、自らの方針を明らかにしないときに訪れ>ます。<何かを公表するとき、極めて曖昧>な企業に対して、それは<戦略がなかったからだと私は思う>と語ります。

「マイクロコンピューター会社、インテル」が1986年のスローガンです。<企業のアイデンティティーを単純化し、戦略上の焦点を絞り込みすぎる>危険があり、リーダーの<直観と個人的判断しか頼れるものはない>とはいえ、明確性なしに組織は変わりません。

<考え方を明確に、しかも現実的にする必要>があります。「現実的にする」とは何か、グローブはドラッカーの定義を引きます。<起業家とは資源を生産性や収益性の低いところから高いところへと動かす人>です。経営資源の再配分を実行するということです。

 

3 構想を紙に書き留めること

<方向を明確にすること、すなわちどうしたいかを明らかにすると同時に、どうしたくないかも明らかにすること>、つまり戦略地図を描くことが必要です。<頭の中の地図にはあいまいな点も多い。従って、必ず自分の構想を紙に書き留めるようにすべき>です。

構想を作るには、<自分の直観力を磨き、さまざまなシグナルを感知できるように>ならなくてはいけません。まず一人で考え抜いて紙に書くことが必要です。そうしたら、<自分の意見を明快にするために>仲間に見せて、<話し合うとよいだろう>と語ります。

焦点を絞り込んだ構想はリスクを伴うものでしょう。それでも、<一つの戦略目標にすべてを賭け>る必要があるのです。「一つのバスケットにすべての卵を入れて、そのバスケットから目を離すな」と、グローブはマーク・トゥエインの言葉を引用しています。

 

4 個人のキャリア構築も同様

インテルのような巨大企業の経営者と、私たちの立場は大きく違います。しかしこの点について、グローブの言う通りでしょう。<戦略転換点から学べることは、会社経営においても個人のキャリア構築においても同じように当てはまる>ということです。

どうしたいのか、どうしたくないのかを明確にし、進むべき方向を紙に書き留めることは、私たちにも実行できます。このとき焦点を絞り込むことが重要なポイントです。私たちにできることは限られています。よく言われるように「選択と集中」が必要です。

大切なのは時間の使い方でしょう。<プライベートな時間について><その時間の使い方には大きな象徴的価値がある>とグローブは言います。時間の使い方は、<何が重要で何が重要でないか、周囲に対してどんな言葉よりも雄弁にそれが物語る>ものです。

そうなると<自分のスケジュールがもっとも大事な戦略的道具となる>はずです。<最も大事なことは、あなた自身が新しい戦略のモデル(手本)にならなければならない>ことであり、<この戦略に自分は賭けている>と示すことです。刺激になります。

 

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