■カンと読み:米長邦雄とハロルド・ブルームの共鳴

 

1 米長流 将棋が強くなる方法

『<カン>が<読み>を超える』は、柳瀬尚紀の米長邦雄への質問が中心の対談です。何かを学ぶときの参考になります。将棋の初心者に対して、<どうしたら強くなるかといったら、指すことなんですね><駒を動かしてさえいれば>よいと米長は語ります。

あれこれ考えて一時間に一局だけ指すよりも、<五分で一局ぐらい指して、一時間の間に十局ぐらい指す>のが<いちばん早く強くなる>。その次の段階に行くと<読むっていうことになります><予測がつくようになってくる。そうなると、考えることになる>。

さらにタイトルを取ろうとする段階なら、最善手は何かをずっと読み続けて自分なりの答えを出すことになります。<自分で考えて結論を出せば、それが勉強。唯一の勉強>です。読みを間違ったり、結論も最善手でなくても、<あとはもうよけい>なことです。

 

2 ”カン”は”読み”を超える

米長の将棋の勉強方法は、(1)初級者は量をこなすこと、(2)中級になったら予測しながら指すこと、(3)上級者になったら徹底的に考えて自分の結論を出すこと…です。結論は間違ってもよい、<”誤読”の繰り返しによって将棋は強くなる>と米長は言います。

最善手が指せないとき、そこを突き抜けさせるのは<”カン”です>。”カン”と”読み”と二つの行為がありますが、<”カン”に比べれば、”読む”ということははるかに次元の低い行為>です。では、”カン”をどう養成するか。”誤読”以外にないということになります。

米長の考えを引き出したのは、柳瀬の貢献でした。当時ほとんど一般に知られていなかったハロルド・ブルームを絶好の場で登場させています。詩人を論じた『影響の不安』からストロングとウィークという概念を米長に投げて、それが見事に共鳴しています。

 

3 ハロルド・ブルーム『影響の不安』

ハロルド・ブルームは詩人でも教師でも、ストロングとウィークの概念が使えると考えています。ストロングな人は、先駆者の影響を克服してしまう。<読みということについて、絶えず”誤読”、読み間違いをすることがストロングな読みであると>いえます。

ストロングな人なら、表現を伝統にあわせる代わりに変革してしまいます。そのとき伝統などの<影響の不安というものを誤読によって克服しながら、そうやって自分たちにとっての想像力のスペースを、空間をだんだん広げていく、クリアしていく>のです。

柳瀬は解説します。<「読むということは、遅れをとってて、ほとんど不可能な行為である」っていうんです>、<その本に遅れをとっているからわれわれは読むわけなんです>。その遅れを克服するには、新しいものを創造することが必要になります。

先駆者の仕事を足場にして、その上に行こうとするところがストロングであるということのようです。こうしたブルームの考えを聞いた米長が、自分流にそれを取り入れて将棋を語っています。絶妙なズレかたからして、米長はストロングな棋士だったようです。

 

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