■イギリス人気質から学ぶこと:藤原正彦と中西輝政の対話から
1 イギリス人気質の一筆書き
イギリス人気質を一筆書きしたらどうなるでしょうか。そのとき、『日本人の矜持』での藤原正彦と中西輝政の対話が思い浮かびます。ともにイギリスに留学して、藤原は『遥かなるケンブリッジ』、中西は『大英帝国衰亡史』を著しています。
中西は言います。<「三段論法は地獄への道」というものがあります。彼らは形式的な論理にはこだわらないのです>。イギリス人もかつて、17世紀前半にデカルト哲学が出現したとき、ショックを受けました。壮大な体系の哲学を採り入れるべきかと悩みました。
ところが、<17世紀後半になると、「あんな抽象的な体系至上主義に擦り寄ると、自分たちの強みがなくなってしまう」と考えを改め>ます。大陸の「普遍主義・体系至上主義・形式的な論理」を克服してイギリスは強くなりました。西洋哲学史の中核部分です。
2 形式的論理の克服…現実直視
イギリス人は普遍主義や形式的な論理をどうやって克服して、強くなったのでしょうか。中西は、イギリス人が真実(論理)よりも現実を重視することを指摘しています。<目先のことさえ徹底させれば、原則はおのずから定まると信じている>ということです。
藤原も、形式的な論理のいかがわしさを指摘しています。<論理というのは「AならばB、BならばC」と発展させていくものです><ところが出発点Aはつねに仮説ですから、これをどうするかで結論はいくらでも変わるのです>…ということになります。
このあたりはデカルト書簡集を扱ったときにも言及しました。デカルトが公理のごとく基礎に据えた考えがどうもおかしいのです。藤原は言います。<イギリス人はこのことを本能的に知っていて>、論理的な正しさより<現実を直視しよう>と考えるのです。
3 地に足をつけて考える
もちろん、イギリス人が論理を否定していると言っているのではありません。藤原が言うように、<イギリスは、まず具体的な問題から発して、それを解くためには抽象的な論理でも何でも利用するという態度>をとります。それが17世紀後半以降、花開きます。
古典力学はニュートンがほとんど一人でつくりだしたものですし、電磁波理論のマックススウェル、古典物理のラザフォード、進化論のダーウィン、経済学のケインズなど、以後のイギリスでは大天才がどんどん現れます。発明にしても、先に紹介されたコンピュータのほか、レーダーなどがあります。すべて具体的な研究から出てきたもので、そこには「抽象論では大陸にかなわないけれど、自分達は自分達のテリトリーで独創する」といった開き直りもあるでしょう。
行動様式が、具体的で現実的なのです。<いつも地に足をつけて考え、行動するような態度だからこそノーベル賞学者も数多く輩出しているのだと思います>と言う通りでしょう。こうしたイギリス人の考え方、考える態度は大いに学ぶべきことだと思います。