■日本語文法の体系化:英語の規範文法を参考に

 

1 基準となるルールが欲しい

日本語の文法書はほとんど読まれません。残念ながら、読んでもあまり役立ちそうにないからでしょう。全体を串刺しした体系がないからです。全ての文法書に体系がないというのではありません。問題は、実用的な本がないということにあります。

英文法は、英語をどう書いたらよいのか、その基準となるルールが欲しかった英国民が、1762年発刊のラウスの文法を受け入れることによって大枠ができあがりました。それを洗練させた1795年発刊のマリーの文法によって確立したと言われています。

どう書いたらよいのかの基準が必要だという考えに基づいて、日本語の文法書を読むならば失望に終わります。今後も期待に応える文法書は簡単に出ないでしょう。日本語文法の研究者は、伝統的な英文法がもつ体系性のある規範文法に興味を持っていないからです。

 

2 言葉の体系が違う英語と日本語

安直に英文法をもとに日本語文法を作ろうとしても、成功しそうにありません。日本語と英語では、言葉の大きな体系が違いますから、文法体系を模倣しようとしても不可能です。言葉の体系に違いがあるため、英語と日本語の習得には大きな違いが生じています。

赤ちゃん言葉から、大人の言葉へ移行していく英語などと日本語は違います。日本語の場合、赤ちゃん言葉で言葉のつなげ方(主に語順)を覚えた後、並んだ言葉に助詞を接続させる助詞の習得期間が必要です。これがだいたい5歳くらいまでに完成します。

小学校に入った段階では、子供達は助詞の使い方に関してまだ不安定です。そうした子供達に、助詞を意識して使う練習をすると、まず文章量が一気に増えてきます。量がそのまま質に変わっていきます。これは失語症の中のある種の症状のある人でも見られます。

 

3 シンプルな形の体系

日本語では、まず標準的な語順を身につけます。次に、助詞の接続を習得します。その結果、日本語を構築する体系が習得できます。大切な点は、標準的な語順を習得しただけでは複雑なことが表現できず、いわば幼児語の状態に置かれるということです。

助詞が接続することで、正確な表現ができるようになり、文の意味も把握できるようになります。失語症の人達が言葉の理解に苦しむ一つの原因は、助詞の接続による効果を、感覚的にその瞬間に理解できないためです。単語の意味がわからないのではないのです。

一つ一つの語句の意味がわかっても、それだけでは文の理解は出来ません。そこが問題です。すぐれた英文法の解説書が英文を型で見ること、文型を把握することを重視するのは、こうした背景があります。日本語でも同様です。文型の把握が重要なのです。

日本語に五文型のようなシンプルな形があるのかという疑問もありますし、実際にシンプルな体系も示されてもいません。ただ、失語症のある種の症状や子供の作文を見ていると、感覚でわかる程度のシンプルな組み合わせからなる体系がある…ことは確かです。