■付加価値業務と業務マニュアル:属人性の問題 2/2

 

1 リーダーの方針が重要

業務の属人性をどう考えるか…は、組織ごとに大きな違いが出ます。一概に、どうすべきであるとは言えそうにありません。業務マニュアル作成に絡んだご相談の場合、多くは属人性を排した、組織が継続的に問題解決できる仕組みを作りたいという話になります。

そのこと自体、間違いではないですし、それを目指す組織もあるでしょう。ただ、組織や業務に決定的な影響をもたらす分野ほど、飛びぬけた人が少ないはずです。この点で、特別な能力を持った人を生かす組織こそが、強い組織なのではないかと思います。

該当する分野の特別な能力をもつ人は少数ですから、目利きが重要です。この人でなくては…と感じ取れるセンスが大切だと思います。それ以上に、リーダーがこれで行くという方針を明確に示さないと、簡単に特別扱いは認められません。

 

2 ジャック・ホイヤーの提言

大前研一は『最強国家ニッポンの設計図』で、世界の時計市場で勝ち抜いてきたスイスの高級時計メーカーのタグ・ホイヤーのジャック・ホイヤー名誉会長に質問した話を記します。かつて世界を席巻したセイコーの再生を頼まれたらどうするか…というものです。

<「ブランドを維持するには1人のプロデューサーがいればよい。ところが、それをセイコーは組織でやろうとする。セイコーは、高級ブランドのマーケティングを熟知しているプロデューサーを1人雇って全部任せれば復活する」と答えた>そうです。

時計の場合、クオーツ技術によって時刻の正確性とコストダウンを達成しましたが、存在そのものが再定義されてしまいました。時計は装飾品あるいはファッションである…と認識を改める必要があります。感性にかかわる分野は属人的にならざるを得ません。

 

3 プロ集団の組織運営

分野にもよりますが、出る杭を「伸ばす」方向に行くしかない領域があるのだと、最初から認めておくほうがよさそうです。付加価値をつけていくためには、属人性の要素を含みながら、それを上手に働かせる環境を整えて行く方向に進まざるを得ません。

属人化排除という考え方自体が、標準化の考え方と裏腹になっているのです。標準化できる業務であるなら、代わりの人が簡単に見つかるでしょう。ところが実際には、標準化できない業務がたくさんありますから、どうしたらよいのかという問題になります。

ビジネスは反復するものですから、各人の業務を継承できるようにしておく必要があります。同時に付加価値をつける業務の場合、簡単には標準化できません。業務マニュアルを再定義しなくてはならないのです。属人性を武器にすることになります。

これは特異な話ではありません。ドラッカーはときどき、組織をオーケストラにたとえることがありました。プロ集団を集め、それをまとめる指揮者が必要であるということです。こうした組織運営がますます必要になってくるということなのです。

 

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