■業務マニュアルに「why」の記述が必要な理由:S.I.ハヤカワ『言葉と人間』を参考に

 

1 「社会的契約の言語」

何かのときに子供が、「こんどは僕の番」という言い方をすることがあります。この「僕の番」という概念は、抽象的です。こうした種類の言葉は、具体的な事柄を指すものではありませんし、また感情を表す事柄でもありません。別の概念です。

S.I.ハヤカワは、こうした種類の言葉を「社会的契約の言語」と呼んでいます(『言葉と人間』)。この種類の言葉は、現在のことや過去のことを述べるのではなくて、未来のことを述べる形式になっています。たとえば法律の言葉は、この形式になっています。

未来について私たちが何かを言うとき、<われわれの話す能力―未来のことについても抽象化や象徴化ができるという能力―に基づいている>のです。言葉・言語が重要なのは、社会的契約はすべて、<言語なしで存在するはずがない>…からです。

 

2 言語は目的性を裏づける存在

私たちが、<目標を設定する際は、それによって自らの行動にある種の秩序と予測を課している>…ことになります。<社会的契約というのも未来についての約束であり、意図の表示であるから、言語によってなされない限り不可能>…な概念です。

S.I.ハヤカワは、オールダス・ハックスリーの言葉を引いています。<言語を所有するということにより、人間は他の哺乳類には見られないほどの有目的性、頑固さ、一貫性を持って行動することが可能になる>。目的性をもった行動は、言語の裏づけが必要です。

ビジネスで文書が必須で、書かないとどうにもならないのは、ビジネスが「社会的契約の言語」なしには成り立たないからです。ビジネスは、言葉を使って業務の反復性を確保しているというべきでしょう。ハヤカワが引用した後半で、ハックスリーは書いています。

人間に現に見られるような行動の一貫性は、人間が自らの欲望を言語を用いて定式化し、次いで合理化しているという事実によるものである。…毎日毎日を結びつけているあの記述と正当化のための言葉というものがなければ、われわれも永続きしないばらばらの突発的衝動に次々と左右されながら動物のように生活するということになろう。

 

3 「why」を記述する理由

ビジネスにはルールが必要です。ここで言うルールとは、広い意味での「法」であるといえます。法とは、<社会の存立を可能にする程度の行動面での秩序と一様性、予測性を体系化する目的で人間が行う強力な集団的努力>…とハヤカワは定義しています。

ここでいう「予測性」とは、<自らがすると言ったことを行おうと決心しているから実現する>ものです。科学の予測のように、われわれの意思と関係なく実現するものではありません。ルールの根底には、「契約」「意向」「意図」があります。

言語は、こちらに進むようにという「地図」を提供するとともに、自らの努力によってこうしようという「青写真」(ビジョン)を与えてくれる存在です。<ある種の形の行動を規定することのほかに、その規定に従う意図ないし決心を生み出す>ものと言えます。

つまり、かくあるべしと記述するだけでは、たんなるルールの指示でしかありません。それだけでは、不十分です。そうしようという気にさせる「何か」が必要となります。業務マニュアルに「why」の記述が必要な理由がここにあります。

 

参照 1: 定着する業務マニュアル・効果の持続する業務マニュアル
参照 2: マニュアルにおける whyと how

 

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