■サービスの変更と構築:書くことが構築の基礎体力

1 安易なサービス変更の話

私的な勉強会に出席すると、ときどき本音の発言を聞くことができて有益です。しかし驚くこともあります。少し前のことになりますが、大きな会社の管理職の人が、あるサービスの今後についてお話くださいました。よくある話とも言えます。

そのサービスは、富裕層が収益を支えている商品だということでした。それ以外の方たちへのサービス提供のために、収益が圧迫されているというのです。本来なら富裕層だけに絞るべきサービスだ、というお話でした。

ただ富裕層の定義が明確ではありませんでした。お聞きしたところ、だいたいの傾向を富裕層と呼んだとおっしゃるのです。これは意外でした。富裕層という場合、所得と関連性が強い事項ですから、数量化がしやすいはずです。前提が明確でないのに驚きました。

 

2 裏づけの数字が大切

何かを語るとき、その裏づけになる数字があるなら、それを明示することで説得力が増します。何かを語るときの基準として、数字は非常に便利です。数量化しやすい分野で、数字がないと、それだけで調査不足とみなされます。

儲かるお客様の群と儲からない群があるのは、しばしば起こることです。先のお話では、「富裕層」だけに絞ってサービスが維持できるのか、十分な検討がなされていませんでした。富裕層を明確に出来ないのは、この検討が不十分だったためでもあったのでしょう。

儲かる人だけ残して、その他を切ればよいというのは乱暴な話です。極端な例でいえば、宝くじの場合、当選した人から儲けがでるはずありません。ハズレくじを買ってくれた人が多いから収益があがります。当選を出さなかったら、誰も買いません。

 

3 構築の基礎体力

経済学者の間で、税収を増やすために増税をすべきなのか、景気をよくして増収をはかるべきなのか、議論がしばしば分かれます。ただ、原則があります。不景気のときの増税は増収になりにくく、景気のよいときの増税は効果があるということです。

ビジネスに関して、儲かる顧客を残して、その他を切るという発想の話をわりあい耳にします。それが選択と集中という概念を伴って主張されるのが気になりました。全体の利用者動向がどうなるか、数字がないままに話が進むこともあるようです。

利用者数の推移予測がある場合、検証の仕方が変わってくるはずです。利用者が減るときの内容変更は難しいのが原則です。実際のところ、利用者減が予想される変更のケースが増えています。難しい判断が要求されるということです。

こういう場合、新たなサービスを構築してしまった方がうまくいくことも多いようです。そのとき書くことが重要になります。ビジネスの構築や業務の変更のためには、足場が必要です。書くことで検証しやすくなります。構築の基礎体力といえるかもしれません。

 

4 思考の「見える化」が必須条件

なぜ書くことで、新たなサービスを構築しやすくなるのでしょうか。これが基礎体力になるのは、なぜでしょうか。提供しているサービスがどんな内容のものであるのか、簡潔・的確に書いてみると、実質が把握しやすくなるためです。

現在のサービスがどんな状態であるのか把握できますし、他社のサービスとの比較もしやすくなります。漠然とした違いが具体的に客観的に見えてきて、比較できるようになります。サービス内容を記述することで、何を売りにするか見えてくるはずです。

遠藤功が『「見える化」勉強法』で言うように、書いたものはごまかしがききません。「書き言葉」に言語化する作業こそ、思考の「見える化」であるといえます。新しいサービスを構築するには、思考を見えるようにすることが必須条件であると言えそうです。

 

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