■PDCAとBPR:業務マニュアルを作る目的

 

1 業務改善と業務改革

業務改善という用語と、業務改革という用語は、あまり対立的な概念でなくて、どちらかというと同じことを示す場合がかなりあります。「うちでは業務改善と言っているのですが、いわゆる業務改革ですよ」という言い方は、別に特別ではありません。

問題になるのは、何をするかという点です。例えば、業務改善が必要だからとおっしゃって、業務マニュアルをおつくりになる組織があります。たしかに現在の状況を把握することによって、業務の改善が見えてくる可能性はあります。

しかしお聞きしてみると、日常業務の改善は業務を行いながらできるし、そのほうがよいので、この機会にもっと大きな改善を行いたい、というお考えであることがあります。この場合、業務改革といったほうがしっくり来る気がします。

業務マニュアルを作る目的は、業務改革のほうに重点があります。業務の状況を確認して、業務の再設計を行うというのが業務マニュアル作成の主な目的でしょう。その場合、大切なことがあります。改善の手法と、改革の手法は違うということです。

 

2 PDCAとBPR

PDCAとBPRという用語はお聞きになったことがあると思います。PDCAは日本発のものです。デミングセミナーに関わった水野滋がまとめた概念です。plan、do、check、action からなります。

action だけが名詞であとは動詞のため、1980年代に「カイゼン」が知られるようになり、act と言いなおしている例があります。改善の場合、PDCAの過程をたどるのが普通です。多くの場合、業務を行う過程で改善がなされます。

一方、改革の場合、BPRになります。業務マニュアルに関係あるのはこちらです。業務マニュアルを作ることによって、業務の全体像が見えてきます。業務の構造が見えると、業務プロセスを見直すべきところが見えてきますから、BPRを行うことになります。

ご存知のように、BPRというのは Business Process Re-engineerin の略で、『リエンジニアリング革命』(ハマー、チャンピー著)で知られるようになりました。ビジネス・プロセスを変更して、よりすぐれた仕組みに再設計する手法です。

業務というものは、業務の構築、業務の運用、業務の改善からなります。このうち業務の運用と業務の改善は、実際の仕事をする「場」に多くを依存しています。一方、業務の設計をし、その環境を整えるのが業務の構築になります。

構築と、運用・改善は質的に異なります。ビジョンはトップダウン、アクションはボトムアップというのは、この違いを表しています。業務マニュアルでも、現場の工夫を標準化する場合と、業務の構築をする場合の業務マニュアルとでは質的に違います。

 

3 業務改革:業務フロー+BPR

業務の改善を促すために、業務に従事している人に当事者意識を持ってもらうことが大事だと言われています。自分たちが組織の一員だという意識があると改善提案が出てきます。日本は、この面できわめて優れていると言えます。

世界的に展開しているサービス業を見ると、業務改善の提案件数は圧倒的に日本からが多いようです。日本の場合、現場主義ということばに象徴されるように、業務の運用・業務の改善は得意な分野です。

一方、1990年代から日本の弱点と指摘されているのが、業務の構築です。新しいビジネスモデルを作るのが苦手だということです。しかし、これは日本人だけではありません。新しい概念を作りその仕組みを作るのは、誰にとっても難しいことです。

そのとき、改善ではない手法で、あらたな改革をする方法が提示されました。それがBPRです。業務のプロセスに焦点を当てて、そのプロセスを変更することによって、改善を上回る効率化が達成できるということです。

このとき大切なことは、見直す業務のスタートとゴールが明確になっていることです。さらに業務で重視する価値基準が明確になっていることが必要です。スピード重視なのか、コスト重視なのか、品質なのか、どういうバランスかを明らかにすることです。

スタートとゴールを決めて、その価値基準を決めるのは「ビジョンはトップダウン」の過程にあたります。これを実行するために必要なのが、業務フロー作りです。業務フローを作りながら、業務を括ります。スタートとゴールを決めていくことになります。

 

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