■業務マニュアル作成講座の講義を終えて

1 受講者の変化

JUAS(一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会)で業務マニュアル作成講座の講義をしてきました。まず参加者数が予想より多かった点、うれしく思いました。どちらかというと地味な講座ですが、今回、参加者数が平均の倍に近い数だとのこと。

講座を離れたところでも、徐々に業務マニュアルの重要性が認識されてきているのを感じています。喜ばしいことだと思います。今後さらに業務マニュアル作成の重要性が認識されるようになることを祈っています。

参加された方の半数以上が、実際に業務マニュアルをおつくりになったことのある経験者でした。さらに残りの過半数が、今後、業務マニュアルを作る必要のある方でした。受講されたほとんどの人が、業務マニュアル作成従事者になるということです。

講義のあと、1時間を超える質問があったこともうれしく思います。これだけ作成者がそろっていると、質問も具体的なものが中心になります。実際に作成に携わってご苦労されているのがよくわかりました。質問自体、いいポイントをついていました。

以下、講義に対する反応で、いくつか印象に残った点を書いてみたいと思います。

 

2 業務マニュアルの特徴と再定義

業務マニュアルと操作マニュアルの違いについて、よくわかったとおっしゃってくださった方が、何人かいらっしゃいました。業務マニュアルには、操作マニュアルとは違う難しさがあります。その点を認識することは大切なことです。

操作マニュアルには、正解があります。決められた操作をしないと、うまく作動しません。一方、業務に正解はありません。状況に合わせて、よりよい業務に変更していく必要があります。業務マニュアルの場合、変更を前提にした構造にしておく必要があります。

また、業務マニュアル自体の質的な変化も考えておく必要があります。manyual work (manyual labor)という英語が肉体労働を示すように、かつての業務マニュアルは、作業手順中心の決まりきった仕事を扱うものでした。

しかし、知識が重視される時代になってくると、業務従事者自身が考えて判断する場面が多くなります。そのため、判断を必要とする業務の場合、判断基準をマニュアルに書き込んでおく必要がでてきます。

判断基準を元に各自の判断に委ねるのであれば、自分ルールのバラバラな業務にはなりません。ベクトルのそろった業務になります。従来の作業手順を書いただけのマニュアルから、大きく変化しています。マニュアル自体を再定義しないといけなくなっています。

 

3 業務マニュアルの電子化

業務マニュアルの電子化の問題も重要になっています。電子化すると、紙のときの質感がなくなりますから、利用者は、全体のどこを読んでいるのかわからなくなってくることがあります。

ご質問の中に、紙のマニュアルをタブレットに移行したところ、利用されなくなってしまったケースがありました。工場の中で利用するため、タブレットを採用したそうです。10インチですから、工場内を持ち歩くのに、ややわずらわしさがあるのかもしれません。

しかし、なぜ急に使われなくなったのか、よくわかりません。十分な聞き取り調査をしないことには、原因を即断するのは危険です。まず、きちんとした調査からスタートする必要があります。

一般に、紙のものをそのまま電子化すると、使い勝手が悪くなります。電子書籍よりも紙の本が良いのと同じです。凝視しにくくなりますし、質感のなさは欠点になりがちです。
文字をずらずらと並べていくと、一気に読むのが辛くなります。

文章に適切な見出しをつけて構造を示さないと、メリハリがつきにくくなります。文章も簡潔に書くことが必要です。さらに、全体のどこを見ているのか示すことが大切です。たとえば本文脇に構造図をおき、見ている項目に印をつけるなど、工夫が必要となります。

また、せっかく電子化したのですから、利用の記録(ログ)をとっておくのも大切です。優秀な方々が、マニュアルをどう利用しているのか確認できるようになると、業務マニュアルの作り方、使い方の参考になります。

以上みてきたように、業務マニュアルには、まだまだ改善の余地があります。今後とも、作成者とともに創意工夫を重ねていきたいと思っています。

 

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