■業務設計という発想:業務マニュアルの再定義

▼業務の全体像を見ることの重要性

業務マニュアルを作る大きな目的は、業務全体を把握することにあります。分業が始まる以前の時代なら、黙っていても業務の全体像が見えていました。全体が見えなくては仕事にならなかったのです。

昔の時計師は時計を構成するすべての部品を知っていた。これとは反対に、今日の大きな時計工場の労働者達は、その大部分が、細分された労働をはたすだけである。仕事全体との関連からいえば、技師、職工長および熟練労働者で仕事の全体を見渡すことのできる人たちの代表する割合は微弱なものである。 P.M.シュル『機械と哲学』

業務の全体が見えなくなって、どんな影響が出てきたのか。シュルは、書きます。≪こうした発展の端緒の目撃者であったアダム・スミスは、それが労働機能を低下させる性格のものであることを見抜いていた≫。

業務の全体像が見えないと、たしかに労働機能が低下しそうです。アダム・スミスが想定していたのは、業務を運用するときに、効率が落ちるということでしょう。しかし現在では、それだけにとどまりません。業務全体の機能が低下します。

業務は、構築・運用・改善から成り立ちます。IT化によって、情報拡散が圧倒的に早くなったため、今までのやり方の延長線上で考える発想だけでは対処できなくなってきています。業務の改善以上に、業務の構築が大切になっています。

どういう業務の仕組みを作ったらよいのかを、つねに考えなくてはいけなくなっています。単に考えるだけでなくて、継続的に業務を構築していく必要があります。業務設計の過程を組み込むことが要求されるのです。

 

▼業務設計の前提となる業務フロー

まず現状を見る必要があります。業務の全体像をみるために、業務プロセスを文書化していくことになります。業務を見るということは、業務を書くということです。書いて文書にすることで、各業務を写真のように固定化して見ることができるようになります。

業務の連なりが、全体の業務を構成しています。業務の全体像というのは、一連の業務がチェーンになった形式で示されます。こうしたチェーンの構造を確認しないと、業務マニュアルは作れません。この構造をあらわしたものが、業務フローです。

業務フローの作成が業務マニュアル作成の前提になり、業務設計を行うときの前提になります。業務の全体を見るためには、個々の業務の詳細な内容を書く前に、業務フローの作成が必要になります。

業務フローを作るとき注意すべきことは、(1)スタートとゴールで一単位の業務が完結すること、(2)前の業務のゴールをスタートとして、次の業務が始まること…です。業務フローが出来上がることによって、業務マニュアルの作成に着手できます。

 

▼業務マニュアルに必須の要件:業務設計

業務フローだけでは、何が足りないのでしょうか。業務マニュアルに必須の要件は、目的と価値基準です。業務のチェーンごとに、重視される目的・価値基準が違います。スピード重視なのか、品質重視なのか、コスト重視なのか、それらの価値基準が必要です。

目的があるからこそ、その目的に合致する業務の仕組みが決まってきます。よりよい仕組みであるかどうか判断する際にも、目的・価値基準から判断することになります。逆に、業務の一単位を決める際に、目的・価値基準の同一性が判断の根拠にもなります。

業務フローだけでは、業務プロセスしかわかりません。各業務プロセスをどういう業務内容で遂行していくのか、それを示すには、目的・価値基準を確認したうえで、業務を設計していかなくてはなりません。それを業務マニュアルに反映させることになります。

できあがった業務マニュアルには、業務の仕方が記述されているだけではありません。重要な業務ほど、担当者が考える範囲が大きくなります。そのとき、各自が自分ルールで判断してしまったら、業務効率が落ちてしまいます。

判断基準が示されることによって、定型的な業務とは違った水準の業務が可能になります。こうした業務の規定の仕方が、考えることを要求し、プロを生むことになります。業務の設計がきちんとできているからこそ、熟練を生むことになります。

業務改革というのは、業務の設計を新たにしなおすということです。その実施には、新たな業務設計にそった業務マニュアルを作る必要があります。ここでいう業務マニュアルは、単純な作業方法をしるした文書とは、概念が違ったものにならざるを得ません。

 

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