■松下幸之助のBPR

▼BPRとは

若手リーダーの中には、業務改革やBPRというのは、改善のことだと思っている人がいらっしゃいます。ちょっと違います。そのとき、お話するのが、松下幸之助のトヨタ自動車向けカーラジオ納入の事例です。

BPRというのは、ご存知のとおり、ビジネス・プロセス・リエンジニアリングと呼ばれるものです。ハマーとチャンピーが『リエンジニアリング革命』を1993年に出版してから、世界的に広がった考えです。

簡潔に言えば、業務の流れを分析して、業務を再構築することです。1989年に亡くなった松下幸之助がBPRという言い方を知っていたとは思いません。しかし、おやりになったことは、まさにBPRだったと思います。

 

▼カーラジオ納入で成功した手法

おそらく1960年代のことだろうと思います(追記:『決断の経営』に昭和36年頃との記載あり)。トヨタ自動車にカーラジオを納入していた松下電器は、価格を20%下げるようにと要求されました。

担当者はとんでもない、無理ですという反応でした。利益率が5%のモノを20%値下げするなどできないという考えです。

ところが、それを聞いた松下幸之助は、トヨタさんも苦しい競争の中で、値下げを言ってきているのだから、この要求は受け入れると言ったそうです。その後の指示が見事でした。

そもそも利益率が5%ではいけない、きちんと利益を上げるようにと言い、その上で、条件を提示しています。ラジオの性能は一切落としてはいけない、規格を変えてはいけない、大きさも変えてはいけない、しかし、それ以外は自由に変えてよい…と。

結果として、コストダウンを達成した上で、利益率も上がったそうです。

 

▼BPRが成功する条件

なぜこんなことが可能になるのか、松下幸之助は語っています。そのポイントはまさにBPRの考え方です。

いままで改善を積み重ねてきた以上、1割、2割のコストダウンでも、とても無理だと考えがちだ、と松下幸之助は言うのです。それは今までの延長線上でものを考えるからだと言います。

ところが5割のコストダウンと言われたら、今までの延長線上ではとても達成できないことが明らかです。そのとき、今までのやり方を放棄して、まったくゼロから考え直すしかありません。

松下幸之助は、自分の経験から、今までのやり方を続けるよりも、かえってゼロベースで考えるほうが、目的を達成する可能性が高いと語っています。

この成功事例の前提も大切です。権限のあるリーダーが、ゼロペースで考えるように指示を出すという点です。このプロジェクト、あるいはこの範囲において、この条件で、この目的を達成するように…という指示が必要です。

まず大枠を決めることです。いわゆるスコープ決めです。そして、ビジョンの提示が必要です。この2つをリーダーが指示することが大切です。そうすることで、BPRの成功の可能性が高くなります。

お話を聞きながら、事例を読みながら、業務改革やBPRにおいて、リーダーがなすべきことをなしているのか見ていくと、はっとさせられることがよくあります。

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