■現代の文章:日本語文法講義 第4回

(2021年12月30日)

◆今までの連載  第1回 / 第2回 / 第3回

     

1 連載再開にあたって:記述の方針

[1] ワクチン接種後に挫折

連載を再開します。夏にいささか参りました。二度目のワクチン接種の後、面倒なことが出来なくなったのです。結局のところ、あまり厳格にあれこれしようとするとエネルギーが何倍もかかるのだなあ、ということなのだと思います。簡単な仕事はできたのですが、新しいものを考えようとすると、何も思いつかなくなりました。連載というのは何だか危ないなあという気がしましたから、やめておこうとなりました。

この間、ブログは気楽な気持ちで、書けるものを書いていたのです。たいていの話が、他のことをやっている途中で思いついたこととか、その発展形とか仮説とか、備忘録のように書いていました。連載はそれではいけないと、何だか身構えていたようです。

しかしどうも、そういうことはあまりよろしくないようです。新しくテーマで研修をつくるときにも、まずは気楽に思いつきを並べていきます。最初から完成品なんてありません。そう考えると途切れてしまうよりも、ひとまずブログのように、気楽に書いておいたほうがよかったと反省しています。

不十分な所があったら、そこを検証して修正していくつもりです。拙いところがあったとしても、それは実力ですから仕方ありません。実際には拙いところだらけだと思います。それでも書いておきたいことがあったのです。少しずつ改善していきたいと思います。

     

[2] 方針転換

目次をきっちりつくって、それにそって書いていこうとすると、あんがいキチキチの条件を自らに課すことになります。それは本来の部分にエネルギーをかけるのと違います。それなら、あまり厳格に内容を先に決めないで、ある程度の流れを決めておいて、思いついた順番も活かして書いていこうかと思いました。

ブログの場合、一回が短いのです。長いと読みにくいというお話を聞いたことがありますし、実際にあのくらいなら書く方も気楽です。しかしテーマが決まっているときには、逆に苦労します。短く書かなくてはいけませんから、言いたいこともカットして、寄り道もなくして、一定以下の文字数でまとめるしかありません。

連載の場合、最初にある程度の方針を決めていたのですが、今回、方針転換をして、ひとまず書いてみることを重視することにします。同じテーマで文字数を気にせずに書いていく。その程度のゆるいしばりで連載をしていこうと考えたのです。

改めて自分の仕事の仕方をふりかえりました。上手くいくときは、たいていの場合、最初にある程度見えているのです。それを書いていくと、次々足らないところが出てきます。それを補強しながら書いていくと、もう少し見えてきます。そうしたら全部書き直してしまうのです。

今回、それなりに詰めたと思って、いつもと違うスタイルで始めました。別にどうってことなかったはずなのに、ワクチン接種で調子がおかしくなったと思ったら、書くのが負担になりました。これはダメです。もう少し軽やかに行きたいと思います。

      

[3] 操作マニュアル作成の教訓

ひとまず書いていき、それを途中で直していく。目次を作ってから文章を書くのではなくて、文章を書いて、ある程度、自分の考えを吐き出して見える形式にしてから、もう一度目次を見直したほうが、自分では納得するものになります。これは操作マニュアルの作成などにも当てはまる教訓です。研修でもでこうした話をしていました。

マニュアルを作るとき、作り慣れた人は操作マニュアルの目次を最初に作ってから、マニュアルの記述を始めます。ある種の標準形式が出来あがっている場合、慣れた手つきでまとめていきますから、効率的なのだろうと思います。ベテランの方が講義にいらっしゃって、こうした考えを主張します。間違ってはいません。

しかし、こうやって作ったマニュアルがあまり利用されないという場合、つくり方を変えないといけません。実際のところ、上司から講義を聞いてくるように言われたという人が多いのです。ありがたいことに、そういう人の中には、作り方を変えてみますとおっしゃる方も出てきます。いいものを作りたいという気持ちが、謙虚にさせるのでしょう。

一番基本になるのは、ここだけでも使えるようになってください、覚えてくださいというところをきちんと固めることです。ここが使えるだけでもご満足いただけるだろうと思うところをまとめていきます。

いきなり重要ポイントがわかるわけではありませんから、ここだろうと思いついたところをどんどん書いていく。それを強化してまとめていくうちに、重要事項の核が出来てきます。

一番基礎的なもの、重要なものだけを理解していただけたなら、あとは各項目に対して、手順や解決策を記述していけば、たいていは使いやすい操作マニュアルになります。まだマニュアルを作ったことのない人ならば、この方法が成功しやすいはずです。

まだスタイルが確立できていないうちに、ベテランの真似をしてもうまくいきません。その上、先に申しあげたように、慣れた人の作るマニュアルがつまらないと言われたり、あらたな工夫のないマンネリに陥りやすいという教訓もあります。

日本語についてのルールや運用について書くものですから、いわば現代日本語の運用マニュアルです。まだマニュアルを作り慣れていない担当者が操作マニュアルを作るように、書いていけたらと思います。

ブログよりも長いだけです。いきなり完成品を目指さずに、多少行ったり来たり寄り道をしながら、気楽な講義で脱線しながらお話するように…、そんな感じではじめます。

      

2 英語の5文型を構成する「S・V・O・C」

[1] 英語の5文型を補助線にする

前置きはこのくらいにして、実際の話をすすめていきましょう。先ほど、「一番基礎的なもの、重要なものだけ」ということを申し上げました。現代の日本語の文章がどんな構造になっているのか、その辺を考えていきたいと思います。

日本語のセンテンスの構造について考える場合に、英語の5文型というものは参考になると思います。よい補助線になるはずです。ご存知のことでしょう。S+Vとか、S+V+C、S+V+Oというのがありました。第4文型がS+V+O+Oでしたね。第5文型はS+V+O+Cです。

ちょっと脱線しますけれども、第何文型なのか、ちょっと迷うことがあります。順番を覚えようとして、アルファベットでCの方がOよりも先だから、第2文型はS+V+Cになって、そのあとがS+V+Oだからこっちが第3文型だと。

しかし、これではそのあとがうまくいきません。アルファベット順なら、第4文型はS+V+O+Cになるはずですから、アルファベット順ではないですね。5文型にどんな基準で番号をつけたのか、私は知りませんが、どんな基準かと、ふと思うことがあります。

まあこれはそれとして、ここで問題にしたいのは5文型をつくるときに使っている要素のことです。「S・V・O・C」という4つの要素からなります。第5文型「S+V+O+C」には4つがすべてそろっています。私は全部そろっているから最後の第5文型と覚えました。もう順番の話はやめましょう。

Sが主語、Vが述語動詞、Oが目的語、Cが補語。この4つで5つの基本文型を作っています。すべてS+Vがあって、そこにOとCがつく場合がある。これは英語の文に即して考え出されたものです。

     

[2] 「S・O・C」のセンテンス内の強弱

ここで「S+V」をXと置き換えて、Xが先頭に出るという条件で考えてみると、まずXだけ単独の場合があります。これが第1文型です。さらにX+CとX+Oが考えられます。これらが第2文型と第3文型です。ここまでは順当でしょう。

このうちX+Oの後にOとCがつく場合を考えてみると、X+O+O、X+O+Cとなります。これが第4文型と第5文型です。ここまでで5文型ができあがっています。

理屈としては、X+CのあとにCとOをつける組合せも考えらるはずです。順列組合せで行くと、X+C+C、X+C+Oという形が考えられます。しかしこれは5文型にはありません。

なぜなのか。おそらくCとOの力関係があるのだろうと思います。Oの方が主力で、Cは補完成分だというところでしょう。英語の参考書を見てみると、S・V・O・Cのそれぞれになりうる品詞が書かれています。

主語Sになれる品詞は「名詞」「代名詞」「名詞と同じ働きする語句」です。述語動詞Vはそのまま動詞。目的語Oの場合、主語Sと同じく「名詞」「代名詞」「名詞と同じ働きする語句」とあります。その一方、補語Cは「名詞」「代名詞」「形容詞など」とあるでしょう。形容詞が来るのは補語だけです。

各要素に該当する品詞の広さでみてみると、「S=O<C」という関係が成り立っています。逆の観点から言うと、主語Sや目的語Oになれる言葉のほうが限定的になっているということです。

SとOでは、Sのほうがセンテンスでの重要性が高いため、Vで区切ったのかもしれません。Vの前と後ではっきりと要素の違いが見えます。前に置かれるものの方にアクセントが置かれるのは自然なことです。

だからアクセントの強さから言うと「S>O>C」になります。S・O・Cそれぞれの力関係を品詞の絞り込み方から見ると「S=O>C」①…であり、置かれる位置の前後関係でみると「S>O」②…ですから、①②の両者から、センテンス内での強弱の関係は「S>O>C」になるといえるでしょう。

これが後で日本語の構造を考えるときにヒントになります。少し先回りしてこの点を指摘しておきました。

     

3 5文型を考案した目的

[1] 文法教育の簡素化・統一化

5文型というのはあまり学術的なものではなくて、学習用に作られたものだということでした。これは古田直肇『英文法は役に立つ!』にも書かれています。以下、引用します。

▼5文型というのは、起源からして学問的なものではありません。あくまでも教育上の便宜的な手段として考えられたものなのです。 『英文法は役に立つ!』p.75

この起源については、すこし込み入った話があったようです。以下のようなことでした。

▼5文型の起源は、オニオンズ(C.T.Onion)の『上級英文法』(An Advanced English Syntax,1904)とする説が一般に受け入れられていますが、実は違います。宮脇正孝氏の論考(宮脇2012)によれば、クーパー(E.A.Sonnenschein)が描いた『学校のための英文法』(An English Grammar for Schools,1889)が5文型の源流です。オニオンズは、師匠であるゾンネンシャインからの依頼を受けて、同書の姉妹版・上級編として『上級英文法』を書いたのです。
 『学校のための英文法』は、その名の示すとおり、教育のための文法書でした。 『英文法は役に立つ!』p.75

結局のところ、[5文型を考案した目的は、文法教育の簡素化・統一化にあった](『英文法は役に立つ!』p.75)ということです。それでは、こうして作られた5文型がどう評価されているほか。絶対的な評価が確立したとはいえないでしょうが、標準的な考えになっていると思います。

     

      

[2] 基本的な文法規則は「文の構造と5文型」

鳥飼玖美子が『本物の英語力』に記しました。[まず、最低限のルールを知る、というつもりで基本的な文法規則だけは勉強しましょう]。それでは[何が基本なのかといえば、「文の構造と5文型」です](『本物の英語力』 p.64)と保証してくれています。

▼これが英語の設計図であり基本的なルールです。たった5つですが、じっくり見てみると、日本語とは語順が逆だし、日本語では言わなくてもよい主語をいちいち言うし、はっきり言って、面倒な気持ちになってしまいます。そもそも「目的語」だの「補語」だの、文法用語はわかりにくくて困ります。
 でも、ともかくこういう順番に単語を並べないと、英語コミュニケーションという試合に出られないのですから、腹をくくります。試合となれば、ルール違反はできません。 『本物の英語力』 p.66

日本語が英語と違うというのはあえていうまでもない前提です。同時に共通性を感じ取って、私たちは小学校で「主語」とか「述語」といった概念を習います。それが体に合ってない服のように、だんだん使われなくなるのです。

残念ですが、まだピタッとした日本語の文法がないのだと思います。しかし何らかのルールがあることは間違いありません。主語という概念は日本語の実体を見れば、少しずれていますが、それでも何とか使えてはいます。

     

     

[3] 英文では述語の始まりを探す

大西泰斗、ポール・マクベイ『ネイティブスピーカーの英文法絶対基礎力』に、面白い指摘があります。[文の意味を理解するためには、まず主語をつかまえなければなりません。当たり前ですね](p.7)。日本語では当たり前ではないかもしれないのです。

しかしさらに続けて、こんなことが書かれているのです。[日本語文を理解するとき、私たちは無意識のうちに、「~は(が)」を「探し」ます。どこまでが主語かを理解するためです](p.7)。

このこと自体、間違っていません。「は」と「が」だけではなくて、私たちは主要な助詞を無意識のうちに意識しています。しかし英語には助詞がありません。だからどうするのか。この点の指摘は大切です。

▼英語では、主語は述語が横に並んでみて初めて主語であることが了解されます。つまりネイティブは述語が始まるところを「探す」のです。そこまでが主語、というわけ。 『ネイティブスピーカーの英文法絶対基礎力』p.8

5文型を考えるとき、英語ではいくつかの道具を必要としました。まず「S・V・O・C」という要素です。これらのうち「S・O・C」にはアクセントの強弱があります。Sが重要です。だからそれを探す必要があります。探すにはVが必要だということです。

英語の場合、S+Vが中核になるというのは、語順を見ても明らかです。SのつぎにVがくる。こうやって要素を判別していきます。助詞がありませんから、SOCのアクセントがつく構造になっています。S・OとCに該当する言葉には品詞の違いもありました。

英語の場合、最低限のルールを知るというときの道具立てとして、主要要素である「S・V・O・C」を押えること、そのとき品詞、語順について、基本を押さえておく必要があるということになります。

では日本語ではどうなのでしょうか。この点を検討しなくてはいけません。

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