■文意を決めるもの:現代の文章「日本語文法講義」第28回から

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1 文型の決定と文意の決定

日本語の特徴は、文末に主体に関する叙述が置かれているという点にあります。これはセンテンスの中核的な役割を担う部分の位置が固定化されているということです。日本語は、その点で、きわめて有利な条件を持っているということにもなります。

英語について、安井稔が「学習英文法への期待」で重要な指摘をしていました。『学習英文法を見直したい』に所収されています。ここで安井は「文の構造と5文型」について、言及しながら、以下のように問題提起をしているのでした。

▼与えられた文が、例えば、SVOCの型の文であるとわかれば、生徒も先生もともに納得し、一件落着となります。けれども、その文がSVOCという文型であるということ自体は、どのようにしてわかるに至るのでしょうか。 p.268 『学習英文法を見直したい』

言われれば当然のことで、問題になるポイントです。文意がわからないのに文型がわかるということは[通例ありません](p.268)。したがって、[文型の決定に至る道筋は、文意の決定に至る道筋とほぼ重なっている](pp..268-269)ということになります。

     

2 英語の文意決定の手がかり

安井は[文意の決定は何を手がかりとし、どこからはじめてゆくべきものでしょうか]と問うたのです。[正解は、「述語動詞に着目することから始める」とするものでしょう](p.269)ということになります。日本語の文で言えば、文末に着目することです。

▼述語動詞というものは、その文の中で、いわば、最高の権威を与えられている語です。ここで、便宜上、時や場所を表す副詞的修飾語句を切り離しておくことにします。すると、文中の述語動詞以外のすべての語句は、述語動詞に支配され、統率されているという関係が成り立つことになります。 p.269 『学習英文法を見直したい』

英語の場合も、「述語動詞以外のすべての語句は、述語動詞に支配され、統率されている」と言うことができます。日本語の基本要素も、文末との対応関係を持ち、文末に統率されていると言えるでしょう。安井は、「は/が」についても重要な指摘をしています。

▼ラジオのニュース番組で「なでしこジャパンは昨夜オーストラリアと戦いました」と言っていたとします。続けて「なでしこジャパンが…」と言ったとき、急に停電になったと仮定してみましょう。この時点で、つまり後に続く放送を聞かないままで、どちらが勝ったか予測できるでしょうか。 p.274 『学習英文法を見直したい』

出来るのです。安井は言います。[特別なことがないかぎり、なでしこジャパンの勝ちです。どうしてそういうことが言えるのでしょうか。鍵は「が」にあります](p.274)。もし「なでしこジャパンは…」ならば、なでしこジャパンは勝っていないのです。

     

3 文の一番の基本

なでしこジャパンとオーストラリアの二つのうち、なでしこジャパンが選び出され、勝利のチームとして確定したことを、「なでしこジャパンが」の「が」で表すことができるのです。主体を表す「は」と「が」という機能の違う助詞があることは幸いなことでした。

▼こういう場合の「が」には、問題となっていることを唯一的に指定するという働きがあります。上で触れたサッカー試合の場合、問題となっているのは「その試合に勝ったチーム」と考えることが出来ます。つまり、「どちらかが勝った」ということは既知情報で、その「どちら」かを唯一的に指定しているのが「なでしこジャパンが」であるということです。 p.274 『学習英文法を見直したい』

安井は続けます。[もし「なでしこジャパンが」の代わりに「なでしこジャパンは」が用いられていたらどうでしょうか。それは、なでしこジャパンが負けたか引き分けた場合ということ](p.274)です。「なでしこジャパンは」では「勝った!」とは言えません。

こうした主体と主体に関する叙述については、第27回の連載で論じたように、渡部昇一が『学問こそが教養である』で語っていることでした。[文の本質]は[何について何を叙述するか](p.164)ということなのです。以下、その部分を引いておきます。

▼話そうとすれば、まず「何について話そうとするか」がわからないといけないわけで、それから「何を話すか」ですね。これだけ押えておけば、表現形式が日本語と英語で多少違っても、大筋においてはなんとか通るんです。 p.164 『学問こそが教養である』

主体がわかるということは、「何について話そうとするか」がわかるということになります。文末に置かれるのは、[何を叙述するか][何を話すか]の内容です。主体と文末の関係が[一番の基本]になります。この点は、日本語でも英語でも変わりません。

    

     

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