■現代の文章:日本語文法講義 第24回概要 「主題の概念」

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1 書くときに意識するのは主題の概念

日本語で主題と言われても、その概念がよくわかりません。読み書きする側からすると、仕事や正式な文書でも、使えるものでないと困ります。ひとまず「は」をつけて、そのあと関係あることを続ければいいというのでは、論理的な文章が書けるようになりません。

私たちが文を書くときに意識することは、これは文末の主体になっているかどうかということの方です。主題かどうかは、意識しません。河野六郎が言うように、まず念頭に浮かんだ観念を言葉にしたものが【主題(thema)】ですから、意識しないのが自然でしょう。

日本語ではハ接続が主題だということになっています。しかし、この一対一対応では使えませんから、ひと先ず脇に置いておき、英語では、主題の概念をどう使っているのかを見ておきましょう。上田明子が『英語の発想』で明確に論じています。

上田は主題=シーム(theme)を定義して、[シームとは、文の最初に来る語ないし語句のひとまとまり](p.97)であるとしています。「theme」とは、チェコ語の「thema(主題)」と同じ意味の英語です。ふつうにはテーマと呼ばれています。主題のことです。

     

2 英語の主題概念と日本語への適用

上田の定義で行くと[文の最初に来る語ないし語句]ですから、河野六郎がいう【[何かを言う際][言葉の自然な発露に従っ]て、[まず念頭に浮かんだ観念を言葉にしたもの]】に該当しますし、判別も簡単です。以下の例文で、上田は主題を抽出します。

▼高橋英夫『西行』
(1) 平成二年(1990)は、西行円寂後八百年の遠忌に当たっていた。(2) その年のうちには行けなかったが、(3) 次の年平成三年の四月上旬にこの寺を訪れてみると、ちょうど境内の桜が満開を少し過ぎたところであったらしく、坂道をあがってゆくにつれて、ここもまた桜の寺であるのが明らかになってきた。

(1) 【平成二年(1990)は】 ⇔ 【The second year of Heisei(1990)】was…
(2) 【その年のうちには】 ⇔ 【That year】, I couldn’t…
(3) 【次の年平成三年の四月上旬に】 ⇔  but 【at the beginning of April, the next year, that is the third year of Heisei】, when I visited

(1)と(2)では、主題はハ接続になっていますが、(3)ではハ接続になっていません。この文の場合、「主語-述語」にセンテンスの安定性を担わせ、新情報を冒頭で提示しました。通常の「既知→未知」の流れに反する場合、主語ではない主題が冒頭に出されます。

     

3 マテジウス『機能言語学』での見解

マテジウスは『機能言語学』で、新情報に当たるものから記述をスタートさせる場合、[容易に認識できる観念](p.94)をとっかかりにすると記しています。この点、上田明子は『英語の発想』で、新情報と主題の役割を具体例として示しました。

▼新情報をいくつかの文のシームにおいて、「ある場所では…」「次には、どうやって…」と推移を表したり、「あるときには…」「一方、他のときには」と比較を表す組合せをつくることができます。それによって、いくつかの文からなるパラグラフの中で、連続とまとまりをはっきりさせるという役割を果たすのです。 p.105 『英語の発想』

しばしば場所や時間が主題になるというのは、マテジウスも指摘しています。「湖の堤の上に若者が立っていた」という例文をあげて、[「湖の堤」を容易に認められるもの、与えられたもの](p.94 『機能言語学』)と言い、これを主題としているのです。

例文が「若者が湖の堤の上に立っていた」になれば、主題(シーム)は「若者が」になります。「若者がね…」どうしたのかと言えば、「湖の堤の上に立っていました」となるでしょう。この場合、主題=主体(主語)です。主題はハ接続だという公式は成り立ちません。

     

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