■久石譲の仕事の仕方:『感動をつくれますか?』から

     

1 仕事は“点”ではなく“線”

久石譲の『感動をつくれますか?』を読み返してみました。ひさしぶりに読んだという感じではなくて、ほとんど内容を忘れていました。しかし印がついているところなど、その通りだと思うところばかりです。ずいぶん前に読みました。2006年に出た本です。

▼ものづくりの基本は感性だとよく言う。感性も創造も言葉では説明しにくい。だが、人間はものを考えるという行為を、言葉を介してやっている。ということは、僕が音楽家としてやっている方法、考え方、視点、もっと無意識下の感覚、そういうものをできるだけ言葉で表現することで、透けて見えるものがあるのではないか。 p.4

こういう意識のもと、[第一章「感性」と向き合う]から語られます。ものをつくる姿勢には[自分の思いを主体にして、作りたいものをつくる生き方]と[自分を社会の一員として位置付けてものづくりをしていく在り方]とがあり、自分は後者だと言います。

[つねに創造性と需要の狭間で揺れながら、どれだけクリエイティブなものができるかに心を砕く](p.17)のです。[ものをつくることを職業としていくには、一つや二ついいものができるだけではダメだ][仕事は“点”ではなく“線”だ](p.20)と規定します。

      

2 最初の印象を重視

久石は[一流とは、ハイレベルの力を毎回発揮できること](p.21)だと考えますから、生活も[できるだけ規則的に坦々と過ごす](p.23)のです。[夕食抜きでぶっ通し]など[過度な負荷をかけることで、翌日の効率が確実に落ちる](p.25)ことはしません。

仕事を始めるとき、打ち合わせなどの[この段階で受けた最初の印象というのを結構大事にしている](p.33)とのこと。[初めに感じたものを流してしまわず、資料の裏などにメモしておく](p.34)。初めのイメージに立ち返ることが方向性を与えてくれます。

イメージが大切です。久石はゲーテの言葉[感覚は欺かない。判断が欺くのだ]を引いています。実際のところ、[何かをじっくり考えているとき]よりも[日常的な行動を無意識にしているときにアイディアが飛び出してくるケースが多い](p.36)とのことです。

[全精力を傾注し、自分をどんどん追い込んでいく中で、つまり潜在的にはつねにそのことを考えているような状況の中で、ぽっとアイディアが浮かんでくる](p.34)。当然、[浮かんだアイディアは、その度に書きとめておき]ます(p.36)。

      

3 こだわり、バランス感覚、タフな精神力

久石は[自分を客観的に見る“もうひとりの僕”の存在を持とうと務めている](p.60)。[自分の感情だとか先入観などを取っ払ったところでものを見、判断する](p.61)のです。そのとき[最初の印象は間違いなくその人の本質をついている]と考えています。

これが直観力なのです。だから初めのイメージに立ち返ることを重視します。仕事の仕方も[曲の輪郭がある程度定まったら、あえて完成させずに次の曲に移る]、[必要な全部をまずつくってしまう](pp..71-72)。最初のイメージを形にすることを重視します。

[一曲ずつ個別に仕上げるよりも、全体としてのバランスをよく見られる](p.72)点でも有利でしょう。[ものをつくる人間に必要なのは、自分の作品に対してのこだわり、独善に陥らないバランス感覚、そしてタフな精神力](p.101)だと、久石は語っています。

    

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