■業務マニュアルの再定義とOJT用のマニュアル

     

1 肉体労働と古い業務マニュアル概念

先日の業務マニュアルの講義で、マニュアルを作ると自由がなくなるというイメージがあるというお話が出ました。自由なお考えをお聞きしたくて、講義の途中でこちらから問いかけをした中でのお話です。こうしたイメージがあるのは当然かもしれません。

肉体労働という用語があります。もとの英語はどうなっているでしょうか。お調べになると分かると思います。「manual labor」とあるはずです。いまでは「physical labor」と書かれていることもあるかもしれませんが、もとは「manual labor」でした。

マニュアルが再定義されて、かつてとは違った概念になりましたが、こういうところに痕跡が残っています。頭を使わずに、言われるとおりに労働することによって、大量生産が可能になりました。成果が上がったため、古い業務マニュアルの概念が確立したのです。

     

2 ベトナム戦争の影響

古いマニュアルでは、「5ポンドのハンマーを 高さ1ヤードにあげ、強く打ちおろせ」といった記述になっています。この通りやらないといけません。5ポンドのハンマーがなかったら、6ポンドのものを使ってよいのか確認して許可が必要になります。

古いマニュアルのイメージはこんなところでしょう。しかしこうしたモデルが使えなくなりました。ベトナム戦争の影響で、こうした概念が大きく変わってきたようです。その変化について、ドラッカーが1966年の『経営者の条件』に書いています。

▼「ここでは、責任者は私である。しかし部下がジャングルで敵と遭遇し、どうしてよいかわからなくとも、何もしてやれない。私の仕事は、そうした場合どうしたらよいかをあらかじめ教えておくことだ。実際にどうするかは状況次第だ。その状況は彼らにしか判断できない。 『プロフェッショナルの条件』の訳文 p.69

すべて最初からこうするようにと伝えることは出来ません。ケースについて、どうしたらよいのか、考え方の指針と実際の対処法を教えておくしかないということです。当事者が考えない限り、対処できません。古いマニュアル概念では実践できないのです。

     

3 事前の訓練が不可欠

ケースごとに、どういう状況であるかを考えて、どう対処していくか自分で決めていくことになったなら、事前に訓練が必要になります。シミュレーションをすること、その上で、それぞれの対処法を訓練して事前に身につけておかなくてはなりません。

業務のスタイルが変わって、自分で考える領域が拡大してくると、各人が自分で様々な対応を考えることが不可欠です。こうした前提で組織側は、対応策を考える必要があります。事前にシミュレーションをすること、さまざまな訓練をすることは不可欠です。

教育訓練、OJTといったものは、業務が変化した結果、不可欠なものになりました。組織としては、いかにレベルの高いプログラムを作り、それをいかに効果的に習得できるようにするかということが重要です。それが組織としての成果に直結します。

こうした仕事に、個人差が出てくるのは避けられません。個人差を評価することも、教育訓練、OJTでは不可欠なことです。個人差を前提に、プログラムを組む必要があります。OJTのマニュアルが必要になるのも当然なのです。今度、このテーマで講義を行います。

    

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