■『知的生産の技術』の前提:梅棹忠夫のB6カード方式

   

1 カードには発見を書くこと

梅棹忠夫の名前は多くの場合、『知的生産の技術』か『文明の生態史観』の本の著者として知られています。とくに『知的生産の技術』のカード方式は、実際にカードを作った人たちもかなりいましたから、20世紀末までは圧倒的な知名度がありました。

しかしB6カードで整理するときに、梅棹の意図と違った使い方をする人がたくさんいたようです。『日本語の将来』にある山根一眞との対談で梅棹自身が語っています。[1万枚注文してほとんど使わなかったという人がたくさんいるんです](p.58)。

なぜそうなるのか、梅棹は言います。[使い方が悪いんです。本に書いてある情報、あるいは新聞でみた情報をカードに写す人がおるんです。それは、まったくナンセンスです]。対談者の山根一眞も[私がやったことも、それでした]と答えています(p.58)。

梅棹は、どうすればよかったのかをシンプルに語っていました。[カードには、発見を書くんです。自分が発見したことを書いていく。これは、オリジナルですから、有効に使えるんです](p.59)。いまもこの原則は変わらないでしょう。大切なポイントです。

     

2 発見を生み出す基礎

たいていの場合、自分の発見を書かずに、よいと思った文章を書き写したり、大切だと思う記事の切り抜きを強引に貼りつけるのでした。これは作業であって、知的生産とは違います。だから梅棹の言う通りなのですが、しかし、そう簡単な話ではありません。

梅棹は、次々発見をしています。しかし普通のビジネス人が梅棹のように、毎日たくさんの発見をすることなど不自然でしょう。無理でなくとも異例です。やはり基礎的なことを身につけて、使いこなせる分野がなくては、発見などたかが知れたことになります。

テレビや新聞を見て何となく知っている程度の知識では、簡単に発見がなされるはずありません。ある程度の基礎を本で学んでおく必要があるのでしょう。ネット情報を検索して、目的の情報だけを入手する方法は効率的なようですが、それだけでは不十分です。

何百頁にもなる本を読み通すのは面倒なことですが、これをしなくては基礎的な知識は身につきません。最近、それができない人が多くなってきました。厚さに圧倒されてしまうのです。そして本を買わなくなりました。これは損なこと、もったいないことです。

      

3 読解力・文章力が前提

まとまった知識を得ようとしたら、ある種の全体像を把握する必要があります。それができたなら、その中の個別の項目を深掘りする必要が出てくるでしょう。それが出来れば、発見を記録する準備、前提は整ったといえます。そうすれば発見が出てくるはずです。

基礎がある人ならば、次々思いついたアイデア、発見をどう処理するか、迷うことになります。梅棹は、そういうときのためにB6カードを使ったのです。梅棹は一日の終わりに、メモした内容をカード化していました。そうとうな枚数になったでしょう。

本を読むなり別の手段によって基礎的な体系を身につけることなしに、知的生産ができると考えるのは無理なことです。まずは自分がいいと思った本を見つけて、それを読み込むことが優先されます。知的生産の前提となるのは読解力、文章力だとも言えるでしょう。

     

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