■人はなぜ予測したがるのか:『0ベース思考』での考え

      

1 インセンティブを理解すること

日々、様々な予測がなされています。ある出来事が起きると、その注目が高いほど、その先の予測があふれるのは、なぜなのか。『ヤバい経済学』を書いたスティーヴン・レヴィットとスティーヴン・ダブナーが『0ベース思考』で、その点について解説しています。

その前に、両者がどんな人物なのか確認しておきましょう。スティーヴン・レヴィットはノーベル経済賞クラスの学者であって、訳者あとがきに[世界的に注目を集める経済学者]だと記されています。スティーヴン・ダブナーはジャーナリストです。

「合法的妊娠中絶が犯罪に与える影響」といったユニークな研究論文を書くレヴィットに注目したダブナーが組んで書いた『ヤバい経済学』『超ヤバい経済学』がベストセラーになりました。この2作の[根底にあったのは、次の結構単純な考えだった]とのこと。

▼<現代生活はインセンティブのうえに成り立っている>。
インセンティブを正しく理解すること、読み解くことが、問題を理解して解決法を考えるためのカギになる。 p.19 『0ベース思考』

     

2 なぜ予測を立てたがるのか

<何を測定すべきか、どうやって測定すべきかがわかれば、世界はそう複雑でなくなる>と言い、<一般通念はたいていまちがっている>、<相関関係と因果関係は別物だ>といった考え方をしています。『0ベース思考』では、次のように予測を説明しています。

▼なぜこんなにも多くの人が将来の予測を立てたがるのかという謎も、インセンティブの面から考えると説明がつく。壮大で大胆な予測を立てて、それが的中すれば、莫大な見返りが得られる。 p.46 『0ベース思考』

さらに予測がハズレても、[他人の予測の結果を逐一追跡しようという強いインセンティブをもつ人はいないから、将来起こることについて知ったかぶりをしても、ほとんど罰を受けずにすむ](p.46)。この予測のインセンティブに、もう一つの理由が加わります。

世の中の[善悪をわきまえ]るための[道徳のコンパスのせいで][答えがすべてわかっていて][善と悪がはっきり線引きされていると思い込んでしまう]点にあるというのです。これが原因だと言われると、そんな気になります。参考にすべきでしょう。

       

3 検証方法を考えるヒント

巷にあふれる予測には、よほど注意が必要です。道徳の面から論じられるものは特に注意すべきでしょう。結局、私たちは自分たちが「知らない」のだと認識し、そう言明するほうがよさそうです。この本には「世界でいちばん言いづらい言葉」だとありました。

知らない人間なら、もっと慎重に物事を考えることができるでしょう。[2つのものごとが同時に起こるとき、片方のせいでもう片方が起こるのだと、つい考えてしまう]。これが<一般通念はたいていまちがっている>、<相関関係と因果関係は別物だ>でした。

この本には、[既婚者が独身者より幸せそうだからといって、結婚したら幸せになるっていえるのか?]とあります。[幸せな人はもともと結婚する可能性が高いことが、データからわかる]とのこと。しかし「幸せ」の定義がなされていません。詰めが甘いのです。

なぜ予測をするのか。今後の対応を考えるため、自分たちがどうすべきかを考えるためという答えが思いつきます。それだけでは答えにはなりません。だから検証が必要です。この本は思考法としては物足りません。しかし検証方法を考えるときに役立ちそうです。

     

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