■マニュアル概念の変化と進歩

      

1 マニュアルがない組織

また今年も、簡単に内定のもらえない会社から内定をもらえた学生が出てきました。今後、おそらく業界以外でも注目される会社です。「これからさらに」の会社ですので、なかなか面白いドタバタの話が続いています。業務の整備、業務の標準化が不十分です。

提供するサービスには定評のある会社ですが、各種手続きのルールが決まっていないため、その都度、混乱している感じを与えています。採用募集の説明にも、マニュアルがないとうたっていました。こういう会社の場合、たいていマニュアルが本当にありません。

これとは別に、マニュアルがないという言い方をしながら、標準化ができている会社もあります。こういう組織の場合、マニュアル文書がない代わりにOJTがしっかりしているのが一般的です。当然ながら、こういう組織では手続きでのトラブルなどおきません。

      

2 標準化を記述する文書

ここでマニュアルという用語が問題になります。マニュアルという言葉自体の概念が明確でないために、用法の面で混乱がおきがちです。従来からの概念を表すマニュアルならば、ネガティブなものだと言ってよいでしょう。それが再定義されてきました。

マニュアル・ワークとかマニュアル・レイバーといえば、肉体労働のことです。頭を使わないで、体だけ使っていればよいというニュアンスが感じられます。実際、そう扱われる仕事も過去にはあったでしょう。しかし現在の先進国では、なくなった仕事です。

かつて使われたマニュアルという用語のネガティブなイメージを気にして、マニュアルがないと言いたくなるのでしょう。問題は標準化されているかどうかです。手続きなどは、標準化されていなくては効率が悪いでしょう。標準化は必要不可欠なことだと言えます。

意識しないままでは、手続きをはじめとした標準化はできません。標準化しようとするから、標準化が進みます。その結果、人間ならではの仕事に集中できることになります。標準化が進んでいれば、機械に任せることができる領域が増えるためです。

     

3 「快適さ」のマニュアル化

従来の肉体労働と結びついたマニュアルの概念は、もはや再定義する必要が出てきました。現在、業務マニュアルといえば、標準化した業務を記述したものというべきでしょう。標準化したうえで、各人が判断を任された領域があるということになります。

そうなると「マニュアル人間」という言葉はネガティブな意味になるでしょう。標準化されたことだけで、工夫のない人間という意味になるためです。マニュアルは不可欠ですが、作成する目的は、人間ならではの仕事をするために必要だからということでした。

▼決められたマニュアル通りにしか動けない人間には、状況に即した臨機応変の対応ということができない。それでこなせる仕事もないわけではないが、サービス業は無理だ。人の主観に左右される「快適さ」は、マニュアル化できないからである。 [新装版]『「なんでだろう」から仕事は始まる!』 p.120

ヤマト運輸元会長の小倉昌男の言葉です。マニュアルがあるという前提で、それだけではダメだという趣旨でしょう。その通りかもしれません。ただし「快適さ」もかなりの程度、マニュアル化できるようになっています。マニュアルは進歩しているのです。

    

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