■基本形からのズレ:日本語文の文法分析

      

1 「主役+文末」の対応

今年もときどき日本語の文章の文法的な分析をやって行こうと思っています。今回取り上げるのは、2022年1月3日の日経新聞の社説「公平で機動力のある再分配制度を」のはじめの部分です。基本からずれた表現は、何となくわかりにくく感じるといえます。

▼社会保障など今の日本の再分配制度は社会・経済構造の変化に合わせたモデルチェンジができていない。共働きを勘案せずに主たる生計者の年収が960万円未満という基準で10万円給付の対象を決めてしまったのは、その象徴といえる。真の弱者に適切な支援を届ける安全網を構築しなければ、日本の資本主義は持続力を失う。

3つの文から成ります。最初の文が問題です。【社会保障など今の日本の再分配制度は社会・経済構造の変化に合わせたモデルチェンジができていない】。このセンテンスの主役となる言葉は【日本の再配分制度】になると思うはずです。本当でしょうか?

文末は【できていない】になっています。主役+文末の形式が「制度は…できていない」の形です。制度ができていないということは、制度がないということになってしまいます。主役+文末が対応していて、文末の主体になっていないとみょうな感じです。

       

2 「誰は・何が・できていない」の形式

文がどういう構造になっているか、詰めて考えてみるとお手上げになることがあります。もう一度、読んでみてください。【社会保障など今の日本の再分配制度は社会・経済構造の変化に合わせたモデルチェンジができていない】。何ができていないのでしょうか。

「モデルチェンジができていない」のです。(1)【再分配制度】の【モデルチェンジができていない】、(2)【社会・経済構造の変化に合わせた】【モデルチェンジができていない】。2つができていないということになります。本来の構造は以下でしょう。

強調: 社会保障など今の日本の再分配制度は 【は←の】
主役: 社会・経済構造の変化に合わせたモデルチェンジが
文末: できていない

「強調」の部分は本来、主役に含まれていたのです。頭でっかちの文でした。何となくおかしいので、強調部分を切り離すように、助詞を「は」にしています。その結果、「誰は・何が・できていない」の形式の文に外形上おなじになったのです。

「彼は・宿題が・できていない」ならば、「彼は・できていない」となって文末の主体者がセンテンスの主役になっています。日経社説の例文は、「今の日本の再分配制度」を強調するというよりも、「誰は・何が・できていない」の形式を借りたのでしょう。

    

3 センテンス構造のバランスの良し悪し

「誰は・何が・できていない」の形式なら、「今の日本は・モデルチェンジが・できていない」です。ただ「社会保障などの再分配制度の社会・経済構造の変化に合わせたモデルチェンジ」と、長くなります。「誰は・何を・どうした」の形式が一般的でしょう。

「日本は/社会保障などの再分配制度を/社会・経済構造の変化に合わせてモデルチェンジ(変更・修正)してこなかった」となります。例文は「モデルチェンジ」に多くの言葉を関連づけすぎました。それを分割するために強調形にしていたということです。

2番目の文も【その象徴といえる】が文末。その前がすべて主役になります。バランスが悪い形式のため、わかりにくいのです。3番目の文は、TPO「真の弱者に…しなければ」を示して、「日本の資本主義は/持続力を/失う」となっていて、素直に読めます。

     

This entry was posted in 日本語. Bookmark the permalink.