■ビジネス人にとっての前提条件:臨床的訓練を参考に

    

1 優先順位を決める基準

ビジネスでは成果が問われます。すべてのことを行うわけにはいきません。したがって優先順位をつけることが不可欠のことになります。大切なこと、重要なことから手をつけることが必要だということです。仕事のできる人なら、そうしてきたことでしょう。

重要な点を明確にすることができなくては、仕事の手順も方法も見えてきません。この原則は一見、あたりまえすぎるように見えます。しかし重要とは何か、大切なこととは何かの基準が問題です。それが明確にならない限り、重要性を明確にできません。

ところが基準がないケースが多いのです。大切だから大切、重要だから重要というのは、普通考えにくいことのように思います。しかし実際には、「一番大切なのは何である」と言い、その理由も記されていながら、何のことやらわからない話があるのです。

大切であることの基準、重要性の基準が明確にされることがないままでは、おそらく他人には伝わりません。これがあたりまえなんだと言っても、他人に分かるように簡潔に明確に伝えられなくては、一番大切なことがわかってないのかと疑われるでしょう。

    

2 取り返しがつかない確率の順に考える訓練

中井久夫は『臨床瑣談』に記しています。[私は医学生時代に産婦人科の教授から、誤診すると取り返しがつかない確率の高い順に可能性を考える訓練を受けていた。ここでまず考えるべきは腫瘍である。マイナーな病の誤診は許される]。

医学のように標準化が進んでいて基準が明確であるはずの分野でも、基準に基づいて考えることは簡単ではないようです。基準が明確であっても、それを実践するためには最低限の訓練が必要であるということ、この方が、あたりまえのように思います。

ビジネスでは、基準が明確に確立されていない分野が次々出てくるはずです。基準を明確にする意識がない限り、明確になりません。自分流を押しつけられたら、それは他人の迷惑になります。重要性の基準を明確にすることは基礎的な作業であるということです。

     

3 ビジネスをするときの価値判断基準

ビジネスの基本が、そのままビジネス文書にも反映します。ビジネス文書の書き出しに、大切なことを書くのは、あたりまえのことでしょう。そのとき、大切な基準が明確であるならば、大切な理由を記すことで基準が見えてくる可能性はあります。

ただ、よくあることですが、なぜ大切なのかがわからないままになりがちです。文書ならば記録に残りますから、自分の書いたものを自分で確認することができます。自分の思考が検証できるのです。文書を作成することの意義は、この点にあります。

あるいは文章をチェックすることで、文章を書いた人が、どれだけ仕事のできる人かまで推定できてしまうでしょう。基準の明確性を自覚することで、文章がよくなります。価値判断の基準が明確になっていない場合、どうすべきかを論じても価値がありません。

いい仕事をするためには、自分の仕事の仕方や、仕事への取り組み方、考え方を自覚することが不可欠です。自分にとって、[誤診すると取り返しがつかない確率の高い順に可能性を考える]こと…に該当するものは何であるのか、意識してみる必要があります。

    

This entry was posted in 方法. Bookmark the permalink.