■ドラッカーの「自己管理による目標管理」がめざしたもの

       

1 マネジメントの哲学とよぶ管理手法

ドラッカーの著作をある程度読む人ならば、自己管理による目標管理つまりは自己目標管理という言葉を聞いたことがあるかもしれません。ドラッカーが『現代の経営』で示したものでした。[マネジメントの「哲学」と呼ぶべきもの]とまでいう概念です。

▼今日必要とされているものは、一人ひとりの人の強みと責任を最大限に発揮させ、彼らのビジョンと行動に共通の方向性を与え、チームワークを発揮させるためのマネジメントの原理、すなわち一人ひとりの目標と全体の利益を調和させるためのマネジメントの原理である。 『現代の経営』 上

『現代の経営』は1954年に出版された本です。60年以上前の「今日」ですから、もはや歴史的な今日になっています。しかし、(1)個人の強みを最大限に発揮させ、(2)共通の方向性を与え、(3)チームワークを発揮させることが必要なことは、現代でも変わりません。

この3つをかみ合わせようとすることは、現代でも必要です。それが自己管理による目標管理によって達成できるかもしれません。もしそうならば、どんなすごいことかと思います。ところが、その実際の説明を聞くと、そのシンプルさに驚かされることでしょう。

      

2 情報量が拡大しオープンになった現代

ドラッカーは「自らの率いる部門がその属する上位部門に対してなすべき貢献」に部門の長が責任を持たなくてはならないと記します。そのため[自ら率いる部門の目標は自ら設定しなければならない]と言い、これが[最も重要な責任]になるということでした。

さらに[自らの属する上位の部門全体の目標設定について、責任をもって参画しなければならない]のです。こうすることで、[自らの仕事を自ら管理すること]になるといいます。こうして目標管理を自ら行うことができるようになるということでした。

しかし現代では、こうした手法で自己目標管理をすることは、まずありません。それは情報量が圧倒的に拡大し、さらに情報を社内でオープンにするようになったためです。必要な情報を社内で公開して、情報にアクセスできるようにする手法が出てきました。

     

3 ビジョンや目標が果たす役割

『賢人のビジネスリーダー力』によれば、星野リゾートでは[全情報を公開。アルバイトのスタッフでも情報にアクセスでき]るようにして、[意見を言うための材料を平等に与え、年齢や経験、役職に関係なく議論に参加できるように]したそうです。

星野佳路社長は、その意図を[情報共有を徹底し、意見を交わすことを求めるのは各社員に経営者視点を持ってもらいたいから]だと語ります。情報を公開すれば、自らの仕事を自らが管理できるかどうかの競争になり、その結果、[完全実力主義]になるのです。

必要な情報の共有が可能になり、その結果、部門長がもつべき責任が、全社員に分散される形になっています。各人の目標を自己管理するよう要求される領域が拡大しました。それに伴って、組織全体の目標を決定することは、会社の経営層の責任になったのです。

ドラッカーがマネジメントの哲学と呼んだ自己目標管理の手法は、ずれが生じてきました。しかしビジョンや目標が果たす役割は変わりません。(1)個人の強みを最大限に発揮させ、(2)共通の方向性を与え、(3)チームワークを発揮させること…が必要になります。

     

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