■日本語の文法分析と文章の修正力:文章が読めるとは?

     

1 センテンスの要素:主役・文末・補助・TPO

日本語を文法的に分析するときに、センテンスの骨組みをつくる中核を主語・述語の関係から、主役・文末の関係と捉えるという話を前回しました。文末の主体にあたるものが主役です。「主役+文末」だけでセンテンスが成立するなら、これが基本形になります。

「私は本を買った」ならば、「主役+文末」は「私は…買った」ですから、「何を?」が足らないと感じるでしょう。「本を」が必要です。漢文では目的語や補語などを補足語と呼ぶことがありますので、この主役以外の必須要素を「補足」と名づけてみました。

主役、補助、文末によって、日本語の基本構文はできあがります。これに加わるのが、TPOの条件です。「いつ・どこで、どんな場合」を表すものです。「もし明日雨が降ったら、運動会は中止です」の「もし明日雨が降ったら」がTPOの条件にあたります。

TPOがなくてもセンテンスは成立するため、基本文型を考えるときには考慮しませんが、センテンスの意味を考える場合、意味内容を決定する条件として大切です。TPOの条件を示す言葉の場合も、「もし明日雨が降ったら…中止です」のように文末と対応します。

      

2 文法的分析と文章の良し悪し

このくらいの説明をもとに、実際の文章を文法的に分析してみてくださいと言って、何人かの教え子たちにここ数年、ドリルを出して確認してきました。間違ったら「ああそうでした、間違いでした」と言える程度には、理詰めで理解できる概念になっています。

では、これが出来るようになると、何がよいのでしょうか。こちらは具体的な事例で見たほうがよさそうです。この文章は適切ですかと聞かれて、「はい/いいえ」で答えるのは、案外難しいのですが、文法的分析をしていれば、それが言えるようになります。

▼国際的な法人課税の改革に向けた重要な成果だ。136の国・地域が巨大なIT(情報技術)企業を念頭に置くデジタル課税のルール整備や、法人税の最低税率の導入で最終合意に達した。
これらを具体化する国際条約や国内法制などの準備を急ぎ、目標の2023年から確実に実施すべきだ。大企業や富裕層に適正な負担を求め、富の偏在を是正する一層の努力につなげたい。

先日掲載された社説の冒頭部分です。二番目の文が実質的な内容を示していて、それ以降の文末が「目標の2023年から確実に実施すべきだ」「つなげたい」と続きます。前者の主役は不適切、後者の主役は不明確でよくわかりません。適切な文章とは言えないのです。

       

3 自分で自分の文章を修正できるかどうか

文章のチェックに慣れている人なら、文章がヘンだと思った場合、主役と文末になる言葉を確認すると思います。たいてい主役になる言葉の概念が広すぎたり、あいまいだったりすることでしょう。さらに文末が不適切な表現になっていることも多いのです。

「神は細部に宿る」という言葉がある通りでしょう。ときに自分の文章を含めて、文法的な分析をしてみると、がっかりすることになります。しかし、こうした経験を積み重ねると、文章の良し悪しが判断でき、文章を適切なものに修正できるようになるはずです。

自分で自分の文章が直せるようになったら、その人は文章が書けると言ってよいのではないでしょうか。一発勝負をして、つねに問題なしの文章を書くのはプロでも無理だろうと思います。大切なのは、自分で適切なものに変えられるかどうかということのはずです。

     

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