■日本語の文章における上位概念の省略

     

1 『英文法 TRY AGAIN!』の説明

英語を教えている先生と話しているとき、基礎から勉強するときに、一番よい本は何かとお聞きしたら、Forestという参考書を勧められました。文法はこれで十分ですとのことです。よほどまれな場合には、厚い本を参照する必要はありますが…とのこと。

心強い話です。しかしこの本だけでも、そう簡単にやれませんよと付け加えられました。600ページを超える本ですから、通読は簡単ではないでしょう。しかし調べるのにとても便利だと思いました。講義でも必要に応じて参照させるのみだとのことです。

それで、ふと思いついて山口俊治著『英文法 TRY AGAIN!』を確認する気になりました。こちらは講義形式ですから通読するための本でしょう。それで、ああ…と思いました。全60回の講義のうち、3回目の講義の副題が「補語がわかると英語がわかる」とあります。

[第2文型(S+V+C)では、意味の上で“S=C”という関係が含まれる]とあり、さらに[この関係が必ず成立する。例外はあるでしょうか? 全くありません]と書かれていました。たぶんこのあたりで読む気がなくなったのだろうと思います。

      

2 何がどうするという英語の言い方

『英文法 TRY AGAIN!』の第3回目の講義で、「夏になりました」という例文が示されていて、英文は「Summer has come.」だと書かれています。ここで、大切な指摘がなされていました。この本をきちんと読まなかったのは、不覚だったと思います。

▼日本語のほうは、主語らしきものははっきりせず、ただ夏になったという情況をまるごとすくいとったような表現ですよね。「夏だな」とか「いやに暑いね」とか、日本語には情況を述べるだけで主語をはっきり表さない傾向があります。
ところが、英語のほうはSummer(S) has come(V).「夏が来た」のように、必ず主語(S)を使って「何がどうする」という表現をするんですね。

英語の場合、[必ず主語(S)を使って「何がどうする」]という言い方をするのに対して、日本語の場合、主語を示さずに「どうなった」という言い方をしています。「する」に対して、「なる」という言い方です。行為ではなくて、状態・結果を示しています。

「夏が来ましたね」という言い方はありますが、「夏になりましたね」という言い方のほうが一般的です。「夏になった」ことを示せば、それで事足りてしまいます。たいていの人が、主語を意識することはないでしょう。ではこの場合、主語はないのでしょうか。

      

3 日本語では上位概念がしばしば省略される

日本語の場合、上位概念がわかるもので、お互いにそれが認識できるときには、その言葉はしばしば省略されます。「夏」といえば「季節」のことだとお互いが認識していることでしょう。こうした場合、あえて「季節が夏になりました」という言い方をしません。

この点、「コンニャクは太らない」というのも同じです。この例文の主語は何かと言われたら、どうでしょうか。「太らない」というのは「コンニャク」ではなくて、食べる人間に起こる現象です。主語はないのでしょうか。ここでも上位概念が省略されています。

省略しなかったら「コンニャクは太らない食品です」となります。コンニャクという食べ物が、太らない食品に該当するのです。上位概念を共通に認識していますから、「食べ物・食品」と言わなくても、わかります。この文ではコンニャクが主語=主体です。

日本語の場合、文末での省略は例外的なことですから、「コンニャクは太らない」の構造を問われると戸惑います。このとき上位概念の省略を意識すれば、この文でも先の「夏になった」の文でも、主体と文末の対応関係を形成する文構造が見いだせるはずです。

      

カテゴリー: 日本語 パーマリンク